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第258話

「ただ、やるからにはお前が全責任を持て。……俺や五十嵐を巻き込むなよ」 威圧的な真木の声に、ビクンッと愁の肩が跳ねる。 「今までなら、そんなバカな真似を繰り返しても、vaɪpər(チーム)の力を借りて簡単に握り潰せたかもしれねぇ。 けど、今の俺達は──自由になる為に、組織を裏切って逃走している身だ。 ……もう、何の後ろ盾もねぇって事、よく覚えとけ」 「……」 「お前のそのちっぽけな欲望ひとつで、俺達までとぱっちりを受けるのは御免だからな」 真木の台詞に、愁の動きが止まる。 何やら思い詰めたような表情──サッと血の気が失せ、さっきまでの熱情がその眼から一瞬で消える。 しかし、だからなのか。 すっかり情欲を失った青い顔が僕の肩口に埋められ、甘えるように縋りつきながら身体を擦り寄せてくる。 「……菊地を()れば、心置きなくヤれるっつったのは………真木の方だろ……」 「──!」 耳元で微かに呻く、愁の声。 その憤りと不安を押し殺すように、僕の身体を強く抱き締める。 その手が、身体が僅かに震え、幼子のように脅えていた。 『心置きなくヤれる』──そう言ったのは、真木がこの計画に愁を引き込む為の舌先三寸だったのかもしれない。 だけど、目的の為なら仲間をも騙して利用する……その真木の遣り口に、尚更嫌気が差す。 「……」 再び動き出した車は、展望台入口へとハンドルを切る。 vaɪpər(ヴァイパー)での事は、ここから始まった。 ここでモルが、このワゴン車に押し込められて。残された僕は、アジトである山頂のラブホテルへ…… あの頃に戻れたら、どんなにいいだろう…… 時間が、あの頃に巻き戻って……寛司とまた出会って…… 二人だけの生活を、何度も何度も何度も…… 永遠に繰り返していられたら、良かったのに……

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