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第259話

「──それで。 さくらちゃんは、何処で降りるの? 何処へ向かえばいい……?」 幸せそうなオーラを放つ真木が、ルームミラー越しに柔らかな目をやり、何時になく穏やかな声で尋ねる。 何もかもを見透かしたような、兄貴風を吹かせる瞳。 その瞳が、憎たらしい。 「……」 無かった事になんか、させない。 ……許さない。 絶対。 そんな犠牲の上に作られた幸せなんか、壊れてしまえ…… ──気持ち悪い。 「……と、とりあえず、近くの駅まで送ってください」 堪りかねた五十嵐が、チラリと僕の様子盗み見た後、そう口を出す。 その遠慮がちな言葉と態度が、余計に腹が立つ。 「……」 二人を視界から追いやり、再び窓の外を眺める。 シートに身を預け、移りゆく景色を眺めながら……もう、二度とここへは戻れないんだと感じ……胸が張り裂けそうになる。 『……産まれてくる子は別だろ』 『俺には幸せにする義務がある』 真木が吐いた言葉が、今更になって僕の胸の中に渦巻き、心に重くのし掛かる。 全ての罪を背負い、その重みを一人抱えたまま……幸せから遠ざかろうとしていた寛司。 家族の幸せの為なら、他人を傷つけ……どんな罪をも犯し、悪にでもなる真木。 そのどちらが正しくて、どちらが間違ってるかなんて……僕が勝手に決めつけたらいけないのかもしれない。 真木の言う通り── 産まれてくる子にまで、罪はない。 ハイジも僕も、そうであったように…… 他人の僕が、その子の幸せを壊す権利なんて、ないのだから…… 「……」 でも……だからこそ── この気持ちを、どうしたらいい。 どうしたら、いいんだよ……

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