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第266話
「ほら、連絡しとかないとだろ。
工藤の親御さん、心配してるよきっと」
「──しないよ」
唇を小さく動かし、吐き捨てるように呟けば、その返しが予想外だったのだろう。五十嵐の口がポカンと開く。
「はぁ? 何でだよ」
「……」
何でって……
そんなの、解るだろ。
親が完全に放任している事くらい、同じクラスの奴なら誰でも知ってる筈。
「心配するだろ、普通は」
「──普通、ならね」
五十嵐の台詞に、カチンとくる。
こいつ、解っててわざと言ってる……?
「じゃあ、アゲハ王子は?
王子にだったら、別に連絡しても構わないよな」
構わない、って……
本当、五十嵐の頭の中どうなってんだよ。
傷害事件の事、知ってるんだよね。僕から真相を聞き出そうと迫るほど興味があったんだから……僕とアゲハの間に何かあった事くらい、想像できる筈。
そうでなくとも──アゲハは今、事務所が押してる芸能人だ。もう、学校やそこいらの地区内で人気の王子様なんかじゃない。キラキラとした華やかな世界で、誰もが憧れる王子様だ。
その王子様の足枷に、僕がなる訳にはいかない。例え、アゲハの連絡先を知っていたとしても──
「俺……工藤がちゃんと家に帰れるまで、見届けたいんだよ。
なんか、危なっかしくて……心配だからさ」
「……」
愁に襲われた時の詫びのつもりか。
それとも、僕をアジトから無理矢理引っ張り出してきた責任か。
……どっちにしろ、今更だ。
行く宛のない僕は、今更何処に行けって言うんだ。
僕の居場所は、もうここには……
「──!」
待って……
……アゲハ……?
脳内に、ビリッと微量の電気が走る。
その瞬間──今までの記憶が引っ張り出され、連想ゲームの如く言葉と映像が次々と繋ぎ合わされていく。
……ホスト……ホストクラブ……
ハイジに連れられ、一度だけ訪れたホストクラブ。
その通路で、すれ違い様に向けられた……蒼い瞳。
バックヤードで襲われそうになる僕を助けた後、アゲハとは連絡を取り合う仲だと、僕にそっと打ち明けてくれた──ナンバースリーの金髪ホスト。
──麗夜……
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