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第264話

「ほら、連絡しとかないとだろ。 工藤の親御さん、心配してるよきっと」 「──しないよ」 唇を小さく動かし、吐き捨てるように呟けば、その返しが予想外だったのだろう……五十嵐の口がポカンと開く。 「はぁ? 何でだよ」 「……」 何でって…… そんなの、解るだろ。 親が完全に放任している事ぐらい、同じクラスの奴なら誰もが知ってる筈。 「心配するだろ、普通は」 「──普通、ならね」 五十嵐の台詞に、カチンとくる。 こいつ、解っててわざと言ってる……? 「じゃあ、アゲハ王子は? 王子にだったら、別に連絡しても構わないよな」 構わない、って…… 本当、五十嵐の頭の中どうなってんだよ。 傷害事件の事、知ってるんだよね。僕から真相を聞き出そうと迫る位興味あったんだから……僕とアゲハの間に何かあった事ぐらい、想像できる筈。 そうでなくとも──アゲハは今、事務所が押してる芸能人だ。もう、学校やそこいらの地区内で人気の王子様なんかじゃない。キラキラと煌めく世界で、誰もが憧れる王子様だ。 その王子様の足枷に、僕がなる訳にはいかない。例え、アゲハの連絡先を知っていたとしても── 「……」 「俺……工藤がちゃんと家に帰れるまで見届けたいんだよ。 なんか、危なっかしくて……心配だからさ」 「……」 愁に襲われた時の詫びのつもりか。 それとも、僕をアジトから無理矢理引っ張り出してきた責任か。 ……どっちにしろ、今更だ。 行く宛のない僕は、今更何処に行けって言うんだ。 僕の居場所は、もうここには…… 「──!」 待って…… ……アゲハ……? 脳内に、ビリッと微量の電気が走る。 その瞬間──今までの記憶が引っ張り出され、連想ゲームの如く言葉と映像が次々と繋ぎ合わされていく。 ……ホスト……ホストクラブ…… ハイジに連れられ、一度だけ訪れたホストクラブ。 その通路で、すれ違い様向けられた……蒼い瞳。 バックヤードで襲われそうになる僕を助けた後、アゲハとは連絡を取り合う仲だと、僕にそっと打ち明けてくれた──ナンバースリーの金髪ホスト。 ──麗夜。

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