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第274話

幸せそうな真木の顔が思い出され、胸の中がザラつく。 憎しみとか悔しさとかじゃない。何だかよく解らない、何か大きな不安のようなものが押し寄せてくる。 僕と五十嵐が、今どの立ち位置にいるのか。一体何処に向かおうとしているのか。……解らない。 同じ学校の生徒である五十嵐は、裏社会に片足を踏み入れてしまっただけの、只の一般市民だ。 だけど、もう戻れない所まで来てしまっているのかもしれない。……僕みたいに。 「……ねぇ」 聞かずにはいられない。 今ここでちゃんと聞いて、知っておかなくちゃ。 「さっきの人達は、一体誰なの……?」 「……」 僕の質問に、五十嵐の表情(かお)が引き攣る。 小刻みに揺れる黒眼。それを誤魔化すかのように数回瞬きをした後、ふっと顔を横に向ける。 「………取り立て屋、だよ」 小さく動く、五十嵐の唇。 そこから飛び出してきたものは、思ってもみない言葉。 取り立て屋──凌や真木達の姿を想像すれば、確かにあの男達と似たような雰囲気は感じる。 ……でも…… 「俺の親父が、ヒモ状態でさ。元々色んな所から借金はしてたんだよ。 でも、ギャンブルに嵌まってからは最悪で。闇金にまで、手を出しちまってさ」 「……」 「……ごめん。先輩のバイク傷付けたからとかって、適当な嘘ついてて」 「……」 「借金。手っ取り早く返す為に、さっきの奴らから、掛け子の仕事を紹介されてさ。 もし受けなければ、妹を……ソープに沈めるって、脅されて……」 「……」 ──妹の為。 五十嵐の話を聞きながら、アゲハの姿が脳裏に浮かぶ。 アゲハも、僕を守る為にホストになった。 僕が若葉の息子であるが故に、いい金蔓(かねづる)になると踏んだ若葉のオトコ──美沢大翔に、それ相応の金を上納し続けている。 「……そう」 思い詰めた五十嵐の横顔。 僕の声に僅かな反応を示し、少し潤んで見えるその瞳を僕の方に向ける。 「ごめんな」 「……いいよ、別に」 答えながら目を伏せる。 『ちゃんと話さなきゃ、解んない事ってあるだろ?』──そう言ったのは、五十嵐の方なのに。 開いたメニュー表を手に取り、ペラペラと捲る。 その様子をじっと見られ、落ち着かないまま顔を上げた。 「……な、何?」 「いや。アイツらも言ってたけどさ。──似てんだよ、お前。俺の妹に」 「……」 五十嵐の瞳が緩み、同級生とは違う視線を向けられる。 「そんな、訳……」 「いや。工藤って、割と女顔してるし」 「……」 「俺の妹も、結構可愛いんだぜ」 そう言った後唇が僅かに動き、殆ど聞き取れない位の言葉を紡ぐ。 「………だから、苦しいんだよ」

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