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第282話

ギシギシギシ…… スプリングの利いたベッド。 静寂を切り裂くように、軋んだ音が同じリズムを刻む。 壊れる………壊、される…… 男の腰の動きが更に激しさを増し、嗚咽混じりに、苦いものが喉奥から上がってきた──その時だった。 「………なんだ。もう、ヤっちゃったんだ」 突然響く、バタンとドアの閉まる音。 足音と共に聞こえる、男の低い声。 呆れたようなトーンでありながらも、その感情は全くと言っていい程感じられない。 「あれ程『待て』って言ったのに。……しょうがない子だね」 ギシッ…… フードの男の背後にある暗闇から、白い手拭いがスッと浮かび上がる。 俊敏に覆い隠される、男の両目。 クンッと引っ張られ、男がのけ反りながら後ろへと倒されれば、必然的に僕の後孔を穿つ男の肉欲も一緒に引き抜かれる。 「……」 何が起きたのか……解らない。 一体、何が…… 「……ああ、そういう事」 男の居なくなった暗闇から、ぼぅ…と浮かび上がる顔。 放心状態の僕を冷ややかに見下ろしながら、不敵な笑みを浮かべるそれは──金髪蒼眼の…… ──麗夜 手を伸ばし、僕の首元にある黒革の首輪を指で引っ掛ける。 「ハイジに付けられたコレ、まだ外して無かったんだ」 「……」 「それに……」 折り畳んだ膝同士を引っ付け、内腿を閉じて秘部を隠す僕の足に視線を落とす。 「こんなの見せつけられちゃったら、『待て』なんてできる訳ないよねぇ。……(ライ)」 目隠しをされてすっかり大人しくなった男を、顔を歪めた麗夜がよしよしする。 ……蕾…… 蕾って…… ……あの、蕾……? 真木の車に初めて乗った時──愁がモルの事を『蕾の弟』と言った。 それに確か、深沢のパーティーの時……響平の口を割らせる為に、蕾を宛がったと知った深沢が、そのやり方は『ゲスい』とまで言って── 「……」 ……ふぅ……はぁ…… 未だ身体は欲情を宿しているのか。先程のような息遣いがずっと続いている。 だけどもう、先程の衝動的な行動は見られない。 だらしなく口を半開きにしたまま、じっとご主人様の命令に従い、大人しく座って『待て』をしている。 まるで、従順な飼い犬のように。 ……この人が……モルのお兄さん……? 信じられない…… 性に貪欲な人なんだろうとは思っていたけど…… まさか、こんな……壊れた感じの人だったなんて── 「……この子はさぁ……『黒くて長いもの』に、異常に性的興奮を覚えんの」 「……」 僕の心情を察してか。のんびりとした口調で麗夜が語り出す。 「そういう、病気。……抑制不可能なんだよ。 対象物が目に飛び込んでしまえば、老若男女誰彼構わず襲いかかって、合意も無しに性行為に及んでしまう。 少年院でもその体質を抑えきれず、教官を襲っちゃってさぁ。……それから院内は『黒くて長いもの』が一斉排除されたらしいよ」 「……」 「でも、幾ら安全な空間が用意されたって。そこから一歩外へ出ちゃえば、対象物が溢れかえっている。簡単に目に付くのは当たり前だ。 この子はね、そんな世の中に上手く適応できない、とても可哀想な子なんだよ」 言いながら、雷の頭をよしよしと撫でて宥める。

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