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第285話

「それをvaɪpər(ヴァイパー)に拾われ、居場所を見つけ、……やっと自由に生きられると思っていたのに。 ……結局、『拷問の道具』として利用される毎日──」 麗夜の言葉に反応し、蕾がビクッと反応する。 甘えているのか。鼻先を少し上げ、麗夜へと顔を向けた後、首を傾げて頭の天辺を差し出す。もっと撫でてと、催促するように。 「……」 「解ったなら、その靴下と首輪……早く外しな」 蕾の要望通り、麗夜の手が頭の天辺に置かれる。 くしゃくしゃと掻き混ぜられれば、モルによく似た赤い髪の毛先が柔らかく揺れた。 ゆっくりと横向きになり、痺れて痙攣する腕に力を入れて上体を起こす。 お腹に力が入る度、ナカに溜まっていた精液がトロッと溢れ、肌やシーツを容赦なく汚す。 膝を曲げた時に付着してしまった、ニーハイソックス。それを、親指で引っ掛け足首まで下ろす。 感覚の殆どない指先。なのに……まだびりびりと痺れながら、震えてる…… 「……」 慣れる訳がない。 もう何度も、レイプされた経験はあるけれど…… その度に傷付き、壊される。 身も心も。 だけど、蕾は──望んでやった訳じゃない。 欲を満たす為とか、誰かを犯して傷付けたい訳でもないのに、そうせざるを得ないのは……加害者であって、真の加害者じゃ……ないのかも── 性に翻弄されるのは、……虚しくて悲しい。 蕾の立場は、とても難しい。被害に遭う僕よりも理解されず……ずっと、苦しんできたのかもしれない── そう、自分に言い聞かせる。 そうでもしないと、突然切り裂かれた精神が持ちそうにないから。 足先から外れた、黒のニーハイソックス。それを、やるせない気持ちと一緒に、闇に向かって放り投げた。 「………あの、」 首輪に両手の指を掛け、視界に入れないまま麗夜に声を掛ける。 「これは……付けてたら、駄目……ですか……?」 「……」 「外す鍵を、持って無くて……」 なら、切ればいい──そう言われてしまえばそれまでだ。 だけどこれは、外したくない。 ハイジが僕に残してくれた、唯一無二のものだから。 「……蕾に見えないようにするなら、別にいいんじゃない」 答えながら、口の片端がクッと吊り上がる。 「──それにしても。 店のバックヤードで会った時と、随分イメージが違うね。 あの時の君なら、蕾に襲われても上手く立ち回れて、直ぐに手懐けられると思ったんだけどなぁ。 ──ねぇ、五十嵐くん」 麗夜が、背後にあるドアへと大きく振り返る。 つられて僕も、目線を其方に向ければ…… 「……」 暗闇の中で分が悪そうに立ち尽くす、五十嵐の姿が。

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