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第284話

──五十嵐 いつから、そこに…… 嫌な感覚が、喉奥に広がっていく。 正座を崩したような格好のまま、無意識に服の裾を引っ張り下げた。 「………まだ解んないかなぁ。 何で五十嵐が電話を掛けたがったのか。何で五十嵐の携帯から、すんなり俺に繋がったのか」 「……」 「俺の番号、そんなに覚えやすかった?」 「──!」 まさか──二人は、水面下で繋がっていた……? あの時、麗夜に辿り着くよう誘導した後、僕に適当な番号を言わせてさり気なく麗夜の番号を掛けた……って事だよね。 ……でも、なんでそんな事…… 一体、何の為に……? 嫌な感覚に襲われ、心臓がバクバクと激しく打つ。次にじわじわと肌が汗ばみ、熱くてなった体温を奪っていく…… 「──どう? 信頼してた相手に、裏切られた気分は」 言い終わるか終わらないうちに、卑下た笑い声を上げる。 この状況を楽しんでいるかのような、酷く悪い顔ながら──蒼いコンタクトレンズの下にある黒眼からは、深沢の時の様なドス黒さは感じられない。 寧ろ、その逆で………感情が、見えない。 「知り合いに、闇金やってる奴がいてね。五十嵐の事、世話してやってくれって頼まれたんだよ。 『ソープに沈められそうな妹を助ける為なら、何だってします』ってさぁ……健気に俺の前に跪いて、額を床に擦りつけて土下座したんだよ。靴先を目の前に出したら、何の抵抗もなく丁寧に舐めるんだぜ。 そこまでされたら、……無下にはできないだろ? 俺の従順な犬になった五十嵐には、菊地の元に送り込んで色々動いて貰ってたって訳だよ」 「……」 ……そんな…… その時の光景を思うと、いたたまれない気持ちになる。 一体どんな思いで、その屈辱に耐えたのか。どんな気持ちで、悪事の片棒を担いできたのか…… そう思えば、五十嵐を責める気持ちが段々と薄れていく。 「……」 「君の前では、どういう訳か細かなヘマばかりやらかしてたけど。……君が低能で騙され易い人間で助かったよ。 お陰で当初の思惑通り、菊地を始末し、君をここに連れ出す事ができたんだからね」 「……え……」 ピンッと張り詰める空気。 まるで、僕だけが薄氷のガラスケースに閉じ込められ、時が止まったかように。 ……始末……って……? 心臓が()り抜かれる。 呼吸が上手くできない…… 麗夜が何か続きを話しているけれど、水中に沈んでいるみたいに……くぐもってよく聞こえない。

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