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第285話
「真木から受け取った、白い粉。
あれ……五十嵐がこっそりすり替えてたの、気付かなかった……?」
「………!」
『五十嵐がすり替えてた』──やけにそこだけハッキリと聞こえ、耳について離れない。
針のように尖ったその残酷な言葉が、容赦なく僕の精神 をズタズタに突き刺す。
思い出されたのは──寝ている僕の額に触れた、指先の温もり。
真木に薬を渡されたあの日の夜……薬を隠したサイドテーブルの引き出しを開ける音を、確かに聞いた……
……あれは……
五十嵐、だった……んだ……
茫然自失の僕に、悪意のある笑みを浮かべた麗夜が続け様に口を開く。
「………知ってるよね。
君が世話になった、愛沢凌平の弟──響平のハナシ。
彼女がさ、迂闊にも真木に捕まっちゃって。しょうがないから、蕾を使って尋問を掛ける事にした。
その時響平にそっと、こう耳打ちしてあげたんだよ。──『もし、真木を上手く言い包められなければ、このままお前をヤり殺す』ってね。
そしたら、見事にやってくれたよ。
『産まれてくる子供の為に……』なんて。使い古された台詞を吐いたら、どうやら刺さったみたいでさぁ」
「……」
「子供 が出来た頃から足を洗いたいと思っていたらしい真木は、当然響平と利害が一致し、その場は見逃す事になった。
そのタイミングで五十嵐 の出番だ。君を逃がしてあげたいと話を持ち掛ければ、菊地をどうにかして抹殺したい真木は、都合のいい展開になるだろ……?」
……そんな……
あのファミレスでの会合は、真木が僕を、ではなく……麗夜が真木を使って、僕を駒にする為のものだったんだ……
止まりそうな呼吸を飲み込み、息を吸い込もうとする。
だけど上手くいかなくて。
上擦って、ヒュッと喉が小さく鳴る。
「──でもな。真木はそれ程馬鹿じゃねぇ。
菊地に溺愛されてる君に殺害を託す事で、俺達の反応を探りたかったんだろう。
奴は頭がいい。用意周到で無謀な事は一切しない。もし計画がバレたとしても、自分に疑いが掛からないよう裏で何か根回ししていた筈だ」
「……」
「想定内だったよ。……でも、内心冷や冷やしていた。
君はその時期、菊地に心が傾き始めていたから、いつ密告するか……ってね」
……それで、薬のすり替えを……
未だ混乱する頭の中で、次第に点と点が繋がっていく。
まるで、麗夜が吐く台詞のパズルピースが、次々と綺麗に組み合わさっていくかのように。
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