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第290話

……違う……! 全然似てない…… ……ハイジなんかじゃ、ない…… 抗うように、何度も何度も心の中で突っぱねる。 そうしないと、このまま飲み込まれてしまいそうで…… 上下に揺らされる身体。 黒革の首輪に付いた、飾りである鎖同士がぶつかり合い、律動に合わせて小さな金属音を立てる。 ハイジは──僕の為なら相手(ひと)を傷付けてしまう猟奇性と、邪鬼を孕む激しい狂気性を兼ね揃え……一方で、硝子細工の様な繊細さと、底知れない優しさを持ち合わせていた。 それでも嘘偽り無く、切ない程に真っ直ぐに、僕だけを見て愛してくれた── こんな奴とは……違う…… ……違う…… そう言い聞かせているのに。 一度身体に巡ってしまえば、そう簡単に元には戻ってくれなくて…… 心が、身体が……勝手にあの日の出来事を蘇らせ、震えが止まらない…… 「……さくら」 「、ゃ……」 甘え縋るようにナカを何度も貫かれ、何度も何度も擦り上げられれば、その存在(かたち)が奥深くに刻まれ──力の抜け落ちる快感と恐怖が容赦なく襲う。 「──あ″ぁっ ……、!」 堕ちる…… ……ぃや、だ……、! 熱く昂っていく身体。胸を突き破るほどに激しい動悸。絶頂感。 もっと欲しいと肉壁が痙攣し、与えられる快感と肉欲を貪ってしゃぶりつく。 ……い、やだ…… 「…………ゃ、だ……」 ……こんなの……おかしい…… おかしい…… 熱く乱れる呼吸。 紅潮する頬。 蕩けて潤んでいく、瞳── ベッドに沈められた両手を握り締め、抗おうと懸命に力を籠める。 だけど……見下ろされる瞳は真っ直ぐ僕を捉え、抑えつけ、離さない── 「さくら……」 「……ぁ、ぁ、……やぁっ、……あ″ぁ……」 ……全然、違う…… 違う、違う、違う、違う── ……ハイジじゃない。 寛司でも、誰でも……ない…… ここにいるのは──五十嵐、だ…… 「…………っ、!」 ナカが擦れる度、甘い電流が身体中を走り抜け……仄暗い背後から、無数の手が伸び…… ……壊れ、る…… 壊さ、れる──堕ち……る……… 拒絶し、留まろうとする僕の精神を引き裂き、身体だけが……強烈な情欲に飲み込まれていき── ──はぁ、はぁ、はぁ、 揺れる視界が、涙で歪んでいく。 間近に迫り、僕の見下ろす絶望にも似た瞳が、脳裏に映るハイジのものと重なった瞬間───僕のナカが切なく戦慄き…… 「………あぁ……あ″………っ、!!」 むぁっ、と立ち篭める、噎せ返る程の甘い匂い──事後の若葉から感じた、あの妖艶な匂いと同じ…… それに当てられたのか。 五十嵐が、僕の首筋に顔を埋める。 「──っ、!! くど……ぅう……」 「……ゃ、ぁあ…あ″……ぁっ、」 「イく──!!」 ──ドク、ドクンッッ…… 最奥に放たれる欲望。 強く握られる手。 大きく震え、粟立つ……心と身体──

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