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第291話

──はぁ、はぁ、はぁ、 交差する吐息。汗ばんだ肌と肌。 濡れた髪が湿った肌に纏わり付いて、気持ち悪い。 重なる手をぎゅっと握られた後、身体を少し浮かせた五十嵐が、荒い呼吸を繰り返し上下する僕の胸元に顔を寄せる。 壊され、粉々に飛び散った心の破片。 それにも気付かず、芯を持った桜色の突りを柔く食んで舌先で転がす。 マーブル状に澱む空気。 その形状に合わせ、身体が嵌め込まれて歪んでいくような錯覚に陥る。 終わりのない愛撫。 絶望の縁に追いやられ、脳内をスプーンでぐちゃぐちゃに掻き混ぜられた様な……鈍くて重い痛みと眩暈── 泣き叫んで、腕が千切れる程激しく抵抗できれば良かった。 それすら許されず、恐怖と激情に縛られ動けなくなってしまった身体。 手足が痺れ、感覚を失い、微量の電気を通されたように肌の表面がびりびりと痺れて止まらない── クチュ……ちゅ、…… 天井から差す、眩い灯り。 睫毛の上と下を柔く重ねれば、溜まっていた涙が目尻から溢れ堕ちる。 軽く食んで吸い上げられる度に響く、淫らな水音。 抵抗できないまま焦れる身体。 濡れそぼつ舌の先が、糸を引いて乳首から離れれば、そのまま僕の肩先、鎖骨、頬と順に軽くキスが落とされる。 光が遮られ、小さく瞳を揺らせば……柔く開かれた唇が迫り、僕の唇を塞ぐ。 ……こんなの、いやだ…… 思い通りにされた上に、嫌なのに感じてしまう僕は──汚い…… 汚い…… ……気持ち悪い…… 「……工藤」 離れた唇が甘やかすように、目尻に残る涙の筋に当てられる。 後から溢れた涙を舌先で掬い取り、劣情の残る瞳が静かに僕を見下ろす。 「……ごめん……工藤……」 肌に張り付いた僕の前髪を剥ぎ取り、剥き出された額に優しく落とされるキス。 その擽ったさは……迷惑だ…… 未だ謝るのも、迷惑…… 心の中で悪態をつくもののその勢いはなく、一度壊された心には……もう、何も響かない…… 「俺は───」 「……いいねぇ…… 工藤さくらのレイプ動画」 突如、上空から降ってくる八雲の声。 五十嵐の言葉を遮り、変に甘く塗り替えられた空気が、下卑た笑いと下品な言葉で切り裂かれる。 「しかも、快楽堕ちまでするとか……」

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