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第292話

「……良いねぇ。 こういうリアルな表情を見たいって変態共は、結構いるからさぁ」 完全に状況を楽しんでいる、悪意で固められた声。 その声に反応し、五十嵐が勢いよく振り返る。その時、少し上体を持ち上げたせいか……ぼんやりとした視界の中に八雲が映った。 ここからでも解る、冷ややかな蒼眼。無感情ながら僅かに歪む口元には、含んだような笑みが見え隠れしていた。 「覚えてるよね。(りょう)のやってた仕事(ビジネス)。 何処にも居場所のない少女達に優しく声を掛け、小遣いと住む場所を与える代わりにAVに出演して貰う。 ──世の中には沢山いるんだよ。未成熟な少女と、どうにかなりたい大物や著名人がさ。 だけど、迂闊に手は出せない。未成年は法律で守られているからね。 どんなに裏で手を回して被害者に金を積んだとしても、一度表に出てしまった情報は、人の記憶から消し去る事は出来ないからね」 「……」 大物達の名簿が載った、顧客リスト── その一部が流出し報道されてしまった為、直ぐに権力者からの強い圧力によって揉み消された。……そうモルが言っていたのを、頭の片隅で何となく思い出す。 「そこで立ち上げられたのが、素人少女を売りにした、大物専用の会員制デリバリーヘルス『J- Angel』だ。 撮影されたこれは、単なる裏モノAVじゃない。所謂、プロフィール動画だ。 風俗店に出向いた客が、性処理相手を写真やプロフィールを見て選ぶのと同じ。会員のみに配信された動画を観て、気に入った子を指名すれば、特定の場所にてその子とマッチングできる。……後は煮るなり焼くなり、お好きにどうぞってシステムだ」 「……」 売り捌いていたのは、裏AVじゃなく……少女達の性の方だった── 「その中には、当然男色家もいる。 若葉の血筋を引く君なら、きっとソイツらに寵愛されて……今頃は幸せに暮らしていたかもしれないのになぁ……」 「……」 「残念だよ。 君に執着していたフリーター男から救い出して、住む場所も仕事も凌が与えてやったのに……その恩を仇で返しちゃうんだからさぁ」 カチャン…… ハンディカメラの液晶画面を閉じ、得意気な表情を浮かべた八雲が、ゆっくりと此方に近付く。

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