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第296話
「──なのに、!」
痛みからか、怒りからか……五十嵐の声が震え戦慄く。
いつしか父親が、ふらっと帰ってきては金をせびるようになった。妹を進学させるだけの金を稼いでいると、嗅ぎつけて。
妹を護る為、悔しい思いをしながらも、五十嵐は大人しくそれに従っていた。勿論、妹の為の資金を予め引き抜いた上で。
そんなやり取りを、何度か妹の前でしてしまった事が徒となってしまったんだろう──
「あの下衆野郎は、……妹に、手ぇ出しやがったんだっ……!!」
家を留守にしている間、金に困った父親がふらっと立ち寄り、家中を荒らしまくった。
何処かに隠ているだろう金貯めた金を探し出し、見つけたそれを封筒毎握り締め、意気揚々と家を出ようとした所に──偶然、妹が帰宅した。
玄関で靴を履いている父と、その背後に見える部屋の様子から、事の重大さを瞬時に悟った妹は、自らの身体を張って父親を引き止めた。
真っ暗な部屋にぶら下がる、裸電球。
それが大きく揺れる度に、二つの大きな影をも大きく揺れながら伸び縮みする。
明暗を分けたその下で、妹を拳で捩じ伏せた父親は、力無く仰向けに倒れ、首元を無防備に曝した自分の娘の容姿を、初めてマジマジと見た。
『………返して。……それは、お兄ちゃんが……』
『そうかそうか。……それなら、服脱いで足開けや』
静かに監視を続けていた蕾 が、床から片足を浮かせ、ソファの座に踵を乗せると膝を抱えた。
「………妹は……身体を、差し出したんだっ。
他にどうする事も出来ず……言われるがままに。
……俺が、汗水垂らして稼いだ、大切な金だからって……それを取り返す為だけに……っ、!」
「……」
天井が、揺れる。
太一らに騙され、監禁され、服を剥ぎ取られ、手足の自由を奪われ……
僕の上に跨がった男が、鋭く光るカッターナイフの刃をチラつかせる。
──はぁ、はぁ、はぁ、
僕を犯しながら口元を歪ませ……その刃先を僕の胸元に当て──
「………目を疑ったよ。
余りに信じられない光景が目に飛び込んできて……一体、何が起きたのか理解出来なかった」
「……」
息を飲み、震えて止まらない身体を更に小さく丸める。
「だって、実の子だぞ。
まさか……血を分けた子供にまで欲情して、思い通りにするなんて……
何処まで下衆な野郎なんだと思ったら、カッと頭に血が昇って──気付いたら俺は、叫びながら親父を鈍器でぶん殴ってた。
何度も何度も何度も何度も……!」
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