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第304話

「………僕の、せいだ」 喉奥から声を絞り出せば、先程叫んだせいか、声が酷く震えガラガラとしていた。 それを、咳き込む間も無く五十嵐が否定する。 「──違う。工藤のせいじゃない。 工藤の事が無かったとしても、俺が掛け子にならなかったとしても……いずれ菊地さんは、誰かに殺されてたよ……」 「……」 誰かに…… ……誰かって、誰…… 八雲に……? それとも他の誰か……? でも、どうして── 解らない事が多すぎる。 誰が一体どういう目的で、寛司を狙っていたのか──全然解らない。 その黒幕は、僕を送り込んだ張本人の龍成かもしれないし、そうじゃないかもしれない。 一体、誰だろう── 寛司は、俺を恨む相手なら沢山いると言ってた。それが、あのコンクリ事件に関わっているのか。それとも、大友組と虎龍会の抗争にただ巻き込まれただけなのか……それすらも解らない…… それに。 目的が寛司の殺害だったとすれば……僕は一体どうして、ここに連れて来られたんだろう…… 口封じしたければ、僕も一緒に殺して心中に見せかける事だって出来た筈なのに…… 「工藤」 ベッド下から聞こえる、五十嵐の声。 何だかさっきよりも弱々しく、とても頼りない。 「……ごめんな。 俺、工藤を苦しめようとしたかった訳じゃないんだ」 「……」 「最初はただ純粋に、工藤をこの世界から救いたいと思ってた。 だけど、菊地さんに絆されていく工藤の姿を見て……こんなの絶対おかしい、間違ってる、って思ったんだ。──どうして俺にじゃなく、酷い事をする男なんだ、って」 「……」 「裸のまま、ベットに眠る工藤の事後処理をしたり、朝ご飯を食べながら他愛のない話をしたり、初めて二人で街中をショッピングしたり──色んな工藤を知っていくうちに、その考えはどんどん強くなっていて……工藤が菊地さんにだけ見せる笑顔や好意は、本来、俺のものなんじゃないかって思うようになってた……」 「……」 「そう思ったら、菊地さんを早く始末したくて堪らなかった。 その頃から、飲み物に混ぜる白い粉を、言われた量より多めにして、菊地さんに飲ませてたんだ」 「──!」 そんな…… 寛司のアトピーが急に酷くなったのは── 「菊地さんを殺したのは──八雲さんの指示に従ったからでも、妹を護る為でも、工藤を救う為でもない。 ……俺自身の為だったんだよ」

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