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第305話

………それ、って……どういう……事……? 間違った事を正す為に、寛司を殺したって事──? ズキンッ── 突然鳩尾辺りに痛みが走る。先の尖ったもので突き刺されたような、鋭い痛み。 息を止め、患部に手のひらを宛て、暫くそのまま踞る。 菊地殺害計画が実行され、八雲に報告を終えた五十嵐は、工藤と共に解放されるものだと思っていた。例え自分は無理だとしても、工藤だけは……と。 しかし── 『明日、工藤さくらを指定場所に連れて来い。次の目的で使用する』 その言葉に耳を疑った。 一体何の為に、二度も手を汚したのか。工藤を救う為じゃなかったのか。──広げた手のひらを固く閉じ、拳に力を籠める。 『……目的なら果たしました。残りの借金なら、俺が何とかします。……だから、工藤だけは──』 『お前、妹がどうなってもいいのか……?』 電話口から聞こえる、不穏な台詞。 八雲のその声は、酷く沈着し淡々としていた。 一切の感情が感じられない。だけど、そこから伝わってくる空気には只ならぬものがあり、底冷えしたように全身がゾクゾクと震え、総毛立つ。 『何でわざわざ、お前に住む所を与えてやったと思う? 慈悲か? 仁愛か? ……ん? ──お前の妹を担保に取る為だ』 『……!』 『もし従わないなら、契約は無効だ。お前の妹をソープに沈める』 「………悩んだよ。酷く悩んだ。 工藤を助けたい──だけど、妹も護りたい。 二人いっぺんに救うにはどうしたらいいか、俺なりに考えたんだ。 ……けど、無理だった。どう足掻いても選択肢は二つしかなくて、進むべき道はひとつしかなかった」 「……」 ………それで、僕を騙して…… 細く小さく、息を吐く。 当たり前だ、そんなの。 五十嵐は、妹を護る為に身を落とし、詐欺の片棒を担いだんだから。天秤に掛けたら、僕を切り捨てて妹を取るに決まってる。 でも、だったら──最初から僕を騙してたんだって言って欲しかった。妹の為に、嘘をついてたんだって…… その方が、きっと楽だったと思う。 全部、五十嵐のせいにできるから──

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