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第303話
──ぃ、あぁ……あ″、ぁぁ…っ、!
「その晩、盗聴しながら……工藤の悲鳴を何度も聞いた。
声が止んでも……激しくヤり殺すみたいな淫らな音だけが、耳に貼りつくように……何度も何度も何度も──!
……気が、狂いそうだった。今すぐ乗り込んで、菊地さんをこの手で殴り殺してやろうと、何度も何度も思った……!」
震える握り拳。
その手が、血で染まっていく……
怒りと恐怖が入り混じり、息が上がり、自分でも驚く程に身体が大きくぶるぶると震えていた。
「このままだと、工藤が死んでしまうかもしれない──そう思えば、躊躇する自分が情けなくて、何度も責めたよ。
……けど、動けなかった。
怖かったんだ。自分が壊れていくのが……
大切なものを、大切な人を……そのせいで、壊してしまうのが……!」
「……」
大切な人──それは多分、五十嵐の妹の事だ。
僕を助けたせいで、護ろうとしてきた妹に危害が及ぶのを避けたかったんだろう。
……でも、それなら尚更……
どうして五十嵐は、聞きたくもない性行為の音まで拾い上げていたんだろう……
そこに、何か重要な会話──例えば、寛司と深沢が、風俗嬢を介して情報のやり取りをしていたとか……?
でも、それなら。……ボイスレコーダーか何かに録音し、回収した後に確認すればいいのに。
どうしてわざわざ、その場で──
「………!」
……もしかして、わざと……?
わざとそういう声を聞かせて……五十嵐に殺意を抱かせようと……?
大切な妹が、父親のレイプによって壊され……五十嵐は性に対して、強い嫌悪感を抱いてる。
そんな五十嵐に、寛司への憎悪を抱かせ、自ら手を汚させようとしたのかもしれない……
「……翌朝、痛々しい姿のまま、死んだように眠る工藤のケアをしながら……酷く後悔したよ。
こんな細くて小さな体で……菊地さんの欲望全てを受け入れたんだと思ったら、とてもいたたまれなかった。
……もう、俺の事はどうでもいい。何もかもどうでもいい。
工藤を助けたい。この汚れた世界から、救い出してやりたい。
それが今の俺に出来る、精一杯の償いだと思った。例え、菊地さんを裏切って、殺してしまっても──」
「……、」
そんな……
胸に異物が入ったように、痛い。
──僕のせいだ。
寛司が殺されたのも。五十嵐が悪事に手を染めたのも。
僕がそのキッカケを作ってしまったんだ──
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