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第309話
はあ………
僅かに開いた唇の隙間から、細い吐息が漏れる。
その瞬間、身体の輪郭に沿って感覚が蘇り、身体の重さを感じる。
瞼をゆっくりと開ければ、一番最初に飛び込んできたのは──点滴袋。
……え……
そこからぶら下がる細い管をゆっくりと辿っていけば、左腕の肘の内側──グルグルに巻かれた包帯の下に、管の先が繋がれていた。
「……気が付いた?」
声に反応して視線を右に移せば、僕を覗き込んで微笑んでいるのは……
「──!」
吉岡。
途端に目が冴え、身体に緊張が走る。
「助かって良かったね。……て言いたい所だけど。あのまま死んじゃった方が、君にとっては楽だったかもしれないね」
「……」
「極度の栄養失調。……それと、レイプによる感染症」
話しながら、ゆっくりと僕の右側から左側へと移動する。
「心配しなくていいよ。直ぐにどうこうするつもりはないから」
「……」
「姫には、この先やって貰わなきゃならない事があるしね」
淡々と言いながら、点滴から垂れ下がる管に手を伸ばす。一定の速度で落ちる点滴液。抓みを回して速度を調整した後、不気味な笑顔を浮かべた顔を向け、僕を冷ややかな目で見下ろす。
「少し、話でもしようか」
ぼんやりとしていた部屋の景色がハッキリとしてくる。
空調の利いた部屋。真っ白な天井。
……ここは、最後に気を失った部屋に似ている。
違うのは、左側にもう一つシングルベッドが置かれていて、その分部屋が広いという事。
「……さて。何か聞きたい事はある?」
空いているベッドに腰を掛け、気味が悪い程人懐っこい笑顔を向ける。
「──五十嵐、は……?」
何気なく口にしてから思い出す。
そうだ。五十嵐。
縛られてベッド下に転がされたまま、どうなったんだろう。
僕の異変に気付いて、声を張り上げ助けを求めてくれて……
……それから……
目を見開いた吉岡が、突然破顔する。
「聞きたい事ってそこ?! 姫をレイプした相手がそんなに心配なんだ……
──やっぱ姫って、世間知らずのお『姫』様……なんだねぇ」
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