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第310話
……何がそんなに可笑しいんだろう。
大きく口を開けて笑う吉岡を、静かに睨みつける。
「そんな事聞いて、どうすんの? またレイプでもして貰う?」
「……」
「いいよ。それなら適任である蕾を、呼び出してあげるから」
僕を揶揄する目つき。
一見柔らかい印象を与える表情なのに、纏う空気はピンと張り詰め、嫌悪しか感じられない。
それに。五十嵐については何も答える気が無いらしい。
「三日だよ」
「……」
「三日、足止めを喰らった」
スッと吉岡が立ち、備え付けの冷蔵庫からペットボトルを取り出す。
「こうなる事を想定して、五十嵐には姫の体調管理まで任せてたのに。
菊地に引き渡した日──ハイジのせいで姫が痩せ痩けたから、食事はちゃんと摂らせるようにってね」
パタンと冷蔵庫のドアを閉めた後、飲みかけだったらしいそれを一気に煽る。
「……まぁでも、これも想定内か」
飲み終えたペットボトルを、背の低いゴミ箱に放る。
カラン、と響く、乾いた軽い音。
「明日には出発する。
それまでには、自力で歩けるようにしておくんだよ。……お姫サマ」
「……」
ぶら下がる点滴の袋。
照明の点いた天井。
……確かに、今すぐ僕を始末するつもりはないらしい。
囚われてからずっと感じていた、身体の怠さが消えている。腕を上げてみて気付く。重いのに、軽い。何だか不思議な感覚。
抗生物質とブドウ糖液──確か、点滴の中身はそう言っていた。
いつからちゃんと、食事を摂っていなかったんだろう。
『もっと食え』って、良く寛司に言われてた。……確か、ハイジにも。
与えられたものは殆ど口にしていなかったし、してもほんの少しだけ。
それ以前からも、余り食べてなくて。お気に入りのジーンズが緩くなっていた事を思い出す。
一体いつから、僕はまともに食事を採らなくなったんだろう……
その結果が、栄養失調……って。
なんか……笑っちゃう。
死にたいって思ってたのに、こうして生かされちゃうんだから。やっぱり思うようにはいかないんだね……
窓の方に目を向ければ、カーテン越しに明るい光が射し込んでいる。
でも、状況が好転した訳じゃない。
囚われの身である事に、変わりはない。
どうして、僕を生かし続けるんだ。
八雲の言う次の目的って、一体何……?
僕を、どうしたいの……?
まだ余り働かない頭のまま、先程部屋を出て行った吉岡の話を思い返す。
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