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第315話
×××
一人でいる事を考えたら……ここに五十嵐がいてくれて良かったと、改めて感じる。
僕一人じゃ、きっとまともに動く事も出来なかっただろうし、ろくな事も考えなかった。
目立つように設置された、天井の監視カメラ。
あの視線を四六時中感じながら過ごしていたら、きっと落ち着かなかったし、気が滅入っていたと思う。
「……」
だけど、本当にそれで良かったのか──その答えは、まだ解らない。
ようやく点滴が外れるものの、未だに身体は自由に動かなくて。
手足の先が痺れて感覚は殆ど無いし、身体を起こしただけで鈍器で殴られたような頭痛と重みがし、目の前が揺れた後、じりじりと脳内が痺れ……砂嵐のように黒い小さな点が目の前に散りばめられながら、暗転していく。
医療的には何も問題はないらしい。なのに身体が思うように動かないのは、恐らく精神から来るものだろう、と……
どんなに偉いお医者様なのかは解らないけど、全てを精神論で片付けるのなら誰だってできる。
……確かに。色んな事があって、気が滅入ってはいるけれど。
でも、それだけじゃない気がする。
幾ら僕が、死んで寛司の所に逝きたいと願っていても、こんな所で死にたくないと思っているんだから──
「……腹、減ったよな」
「……」
「今、お粥温めるから。ちょっと待ってろよ」
下に冷蔵庫が収まっている収納棚の上には、レトルトパックと電気ポット。
そのポットの蓋を開け、湯気の立つ中にお粥パックを丸ごと入れる。
この部屋には、電子レンジもガス台もない。温める為には、そうするより他に方法はないんだろう。
「……」
五十嵐の背中が、心なしか楽しそうに見える。カラオケのような……こんな状況下だからこそ、俺だけでも暗くならないだめの『笑顔の仮面』を張り付け、場を和ませようとしているみたいだ。
「………いい。いらない」
こんな事されても、全然嬉しくない……
溜め息混じりに答えると、何も感じていないんだろう五十嵐が振り返る。
「少しは食べろよ。まだ、まともに動けないんだろ。……無理なら俺が、食べさせてやるからさ」
「……」
案の定貼り付けている、笑顔の仮面。
らしくもあり、らしくないそれに嫌悪感が増す。わざとらしくプイッと顔も視線も横に逸らすものの……流石は五十嵐。全く堪えてはいないらしい。
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