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第320話
ゆっくりと指が抜かれ、冷えた肩や背中にシャワーが掛けられる。
もう三日も経っているし、ナカに吐き出された精液の行方なんて……知らない。
……それに、洗い流した所でこの汚れた身体は、綺麗になんか……
キュッと音を鳴らし、五十嵐が蛇口を閉める。シャワーヘッドを元の位置に戻すと、濡れて張り付いた自身のシャツを脱ぎ始めた。
露わになった、厚みのある胸板。ゴールドのネックレス。
「……」
「俺も一緒に入るよ」
先に浴槽に沈められた後、少し前に詰められ、僕の背後に五十嵐が入る。
広くはない。……けど、そこまで狭い訳じゃない。
張られた湯の温度は心地良くて。芯まで冷え切っていた僕の身体を、じんわりと温めてくれた。
「……さくら」
水音と共に背後から腕が伸び、膝を抱える僕の肩をそっと抱きしめる。
近づく距離。項に掛かる、柔らかな吐息。
「……」
「ごめん。……でも、変な事はしないから」
そう言いながら、五十嵐の鼻先が僕の項を掠める。
腰に押し当てられる、硬く張り詰めたモノ。それが主張するように、時折びくんと反応する。
「……」
……全然、説得力なんてない。
じわじわと僕を支配する、諦めの感情。
こういう状況になってしまえば、僕の意志なんて関係無くて。
抗ってもいなくても、結局違うルートを辿るだけで、同じ結末へと導かれる様になっている。
……だったら、抗うだけ無駄なんだろう……
「……」
「このまま、聞いて」
首を竦めれば、僕を追い掛け更に密着させてくる引き締まった身体。
どうする事も出来ない息苦しさを感じ……僕に掛けられた五十嵐の腕にそっと触れる。
「明日、ここを出発する。──車を運転するのは、俺だ」
「……え」
思いもよらない台詞。
耳裏に吐息が掛かるものの、それまでとは違う緊張が走る。
「幸い、八雲さんと蕾 さんは同行しない。……つまり、車内には俺とさくら、吉岡さんの三人だけになる。
多分、こんなチャンスは二度とない」
「……」
「目的地に向かう途中で、わざとルートを外れる。吉岡さん一人なら、何とかできる……できると思う」
「……」
『思う』って……
確かに相手が一人なら、どうにか出来るかもしれない。
けど、相手は吉岡だ。そんな簡単にいくとは到底思えない。
「五十嵐……」
「ん……?」
「次の目的地で、何があるの……?」
いきなり知らされるより、前もって心の準備をしておきたい──
淡々と五十嵐に聞けば、僕を抱く腕に、力が籠められる。
項に掛かる、興奮気味の吐息。
「……そんな事、聞くなよ。
悲しくなるだろ──」
突然項に当てられる、柔らかな熱。
それが勢いよく何度も押しつけられ、貪るように吸い付く。
「守りたいんだよ、さくらを。
……こんな事になって、今更かもしれないけど」
「……」
「この世界 から逃げて………俺と一緒に暮らそう」
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