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第323話

──ギギッ、 隣から聞こえる、ベッドの軋む微かな音。 視野の端に、掛け布団が大きく盛り上がっていくシルエットが映る。 ……ひた、ひた、 近付いてくる、黒い影。 咄嗟に目を瞑り、仰向けになったまま寝たふりをする。 ──はぁ、はぁ、はぁ、 微かな足音。徐々に近付く気配。 荒々しい呼吸音。 「………眠った、のか……?」 「……」 直ぐそこで聞こえる、五十嵐の声。 そのまま目を閉じていれば、ベッドが僅かに凹み、軋んだ音が響く。 ……え…… 徐に剥がされる掛け布団。その下から現れる僕のガウン姿。 静かに紐を解かれ、合わせた裾を片側だけペラっと捲られて── 「………さくら、」 顔の横に置かれる手。それが更にベッドに沈み……僕の顔に黒い影が掛かる。 足下の方からする布擦れの音。そこから僅かに聞こえる、粘着性のある湿った水音。 「………ぅ″う……、はぁ…ぁ、……」 懸命に押し殺そうとする五十嵐の呻き声と、それに混じって何かが激しく擦れる音が、厭らしい水音に混じって聞こえた。 ……な、に……してんだ…… 曝された肌は、空調の利いた冷たい空気に纏われ、次第に熱を奪われていく。 薄く瞼を持ち上げれば、直ぐそこに五十嵐の顔があり、苦しそうに歪めていている。 そのまま、音のする方へと視線を移せば── ギッギッ…… はぁ、はぁ、はぁ── 五十嵐がしていたのは──激しい、自慰行為…… 「……あ″、ぁ……無理、だ……」 込み上がる呻きを、喉奥に押し込めようと耐えているんだろう──だけどその努力も虚しく、吐息混じりに吐き出されてしまうようで…… 「シた、い──」 切ない程に滾る、本能と欲望。それに抗うかの如く、ベッドに付いた方の手がシーツが握り締め…… 「──ヤ、りた……い……」 その度に揺れるベッド。 繰り返される、荒々しい呼吸。せめぎ合う、理性と本能。 開けた僕の胸元に、熱い視線を注ぐだけで……手出しは一切して来ない。 ……だけどもし、五十嵐の中でそのたがが外れてしまったら…… 僕には、どうする事もできない。 この身体で、逃れられる筈も無い。 口の中に嫌な味がする。 残酷なまでに、自由のない僕…… 「……」 ふと思い出される、浴室で見た光景。 胸に刻まれた紅い痕……こびり付いた精液の跡…… 突然ナカを掻き出す、指── 疑いたくはない。 けど、点滴に繋がれ、意識のない僕の身体を……もしも、思い通りにしていたのだとしたら── 脳裏を過る、気味の悪い吉岡の笑い声。 あの時言ってた『レイプ』って…… ──まさか。

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