326 / 558
第323話
──ギギッ、
隣から聞こえる、ベッドの軋む微かな音。
視野の端に、掛け布団が大きく盛り上がっていくシルエットが映る。
……ひた、ひた、
近付いてくる、黒い影。
咄嗟に目を瞑り、仰向けになったまま寝たふりをする。
──はぁ、はぁ、はぁ、
微かな足音。徐々に近付く気配。
荒々しい呼吸音。
「………眠った、のか……?」
「……」
直ぐそこで聞こえる、五十嵐の声。
そのまま目を閉じていれば、ベッドが僅かに凹み、軋んだ音が響く。
……え……
徐に剥がされる掛け布団。その下から現れる僕のガウン姿。
静かに紐を解かれ、合わせた裾を片側だけペラっと捲られて──
「………さくら、」
顔の横に置かれる手。それが更にベッドに沈み……僕の顔に黒い影が掛かる。
足下の方からする布擦れの音。そこから僅かに聞こえる、粘着性のある湿った水音。
「………ぅ″う……、はぁ…ぁ、……」
懸命に押し殺そうとする五十嵐の呻き声と、それに混じって何かが激しく擦れる音が、厭らしい水音に混じって聞こえた。
……な、に……してんだ……
曝された肌は、空調の利いた冷たい空気に纏われ、次第に熱を奪われていく。
薄く瞼を持ち上げれば、直ぐそこに五十嵐の顔があり、苦しそうに歪めていている。
そのまま、音のする方へと視線を移せば──
ギッギッ……
はぁ、はぁ、はぁ──
五十嵐がしていたのは──激しい、自慰行為……
「……あ″、ぁ……無理、だ……」
込み上がる呻きを、喉奥に押し込めようと耐えているんだろう──だけどその努力も虚しく、吐息混じりに吐き出されてしまうようで……
「シた、い──」
切ない程に滾る、本能と欲望。それに抗うかの如く、ベッドに付いた方の手がシーツが握り締め……
「──ヤ、りた……い……」
その度に揺れるベッド。
繰り返される、荒々しい呼吸。せめぎ合う、理性と本能。
開けた僕の胸元に、熱い視線を注ぐだけで……手出しは一切して来ない。
……だけどもし、五十嵐の中でそのたがが外れてしまったら……
僕には、どうする事もできない。
この身体で、逃れられる筈も無い。
口の中に嫌な味がする。
残酷なまでに、自由のない僕……
「……」
ふと思い出される、浴室で見た光景。
胸に刻まれた紅い痕……こびり付いた精液の跡……
突然ナカを掻き出す、指──
疑いたくはない。
けど、点滴に繋がれ、意識のない僕の身体を……もしも、思い通りにしていたのだとしたら──
脳裏を過る、気味の悪い吉岡の笑い声。
あの時言ってた『レイプ』って……
──まさか。
ともだちにシェアしよう!