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第332話
吉岡の返しに、五十嵐が息を飲む。
「……屋敷を抜け出した後、街で偶然、僕と似たような境遇の奴らと出会った。それが、ハイジのチームだ。
そのチームのケツ持ちヤクザが太田組傘下にある虎龍会の奴だと解って、凄くラッキーだったよ。若葉は、そこのトップである美沢のオンナだったからね」
「……」
「僕はそこに身を潜めながら、若葉に近付くチャンスをずっと伺っていた。
そんなある日、ハイジが突然溜まり場にオンナを連れてきたんだ。
──それが、姫だよ」
信号が青になり、車が動き出す。
少し寂れた街並みの中を走りながら、吉岡が話を続けた。
「またとないチャンスだと思ったね。
……けど姫は、僕が想像していたものとは随分と違っていた。
僕らは、心を穢さなけりゃ生きていけないような逆境の中を、必死に生き抜いてきたというのに………ガッカリさせられたよ。
常に強い誰かに守られ、甘やかされた環境にいながら、僕らと同じ境遇だと思い込んでいる。その上、悲劇のヒロインごっこのつもりか……転んでも誰かの手を借りないと立ち上がれない、気弱なお姫様だ。
コレが若葉の血を引いているのかと思ったら、虫唾が走ったね」
「……」
「だから──だよ。
本当の地獄ってものを、姫に教えてやろうとしたんだ」
──え……
たった……たった、それだけ……?
気に入らないっていうのは、僕が竜一のオンナだったからだとばかり思っていた。
あのガールズバーで、竜一と吉岡が並んだ時の雰囲気が、只ならぬ関係のように感じたから。
……それに、ピアス。
僕が竜一から貰ったそれを、今でも大切そうに、ずっとしているから……
あの時の光景を思い出すと、今でも胸の奥が痛む。
直ぐそこに、大声を出せば届きそうな所に竜一は居たのに。僕に気付く事も無く、吉岡の背中に手を回し、近すぎる距離のまま店を出て行ってしまった……
同じ空間の中に居ながら、竜一と僕との間に立ちはだかる見えない壁。それは、世界を二つに隔て、違うものに作り変えてしまっていた。
「……」
僕が一体、お前に何をしたっていうんだ。
お前が勝手に想像した僕と、本当の僕が全く違っていたってだけで、……何でここまでされなくちゃならないんだ──
そのせいで、僕だけじゃない──僕に関わった人達全てに迷惑が掛かったんだ……!
それまで感じた事のない怒りが、次から次へと込み上がる。
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