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第334話
「それからお姫様は、知り合いの男を頼ってそこに居候したんだよ。そいつが姫に執着しているとも知らずに。
そのまま良いようにされて、最終的には監禁までされたんだよね」
最後の『ね』の辺りで、吉岡が僕の方へと視線を向けたような気がした。
「想定外の出来事だったけど……そこは上手く凌が良い仕事をして くれたよ。
囚われの身のお姫様には、若葉の血が流れてるって話をしたら、凄く食いついてね。
それからは、僕の想定通りに事が動いたんだよ」
「……」
「その頃の僕は、ハイジのチームが解散した事を機に、親父から身を隠すのを止めた。
逆に、利用してやったんだ。親父の息子だという事をね。──そして『道具屋』を始めた。幸い、隠し子の僕を、れっきとした親父の息子だと証明してくれる心強い味方がいたからね。
……それはそれは、上手くいったよ」
高揚したのか。吉岡が突然手を叩く。
それに反応した五十嵐が、運転しながら吉岡をチラッと横目で見た。
「幸運な時期というのは、何をやってもそれが舞い込み、続いていくものなんだよ。
道具屋の仕事が軌道に乗り始めた頃、美沢の方から声を掛けてきた。──若葉の住む所を探して欲しい、ってね」
待ち合わせの喫茶店。
昔懐かしいナポリタンと珈琲が売りの、純喫茶。
そこには、まるで名画のモナリザのように、美しいながら穏やかな微笑みを浮かべる若葉の姿が。
初めて会った時の、親父との情事を終えた後の様な、強烈な妖艶さは無かったものの、それでも──世界を君臨する覇者達を、この美貌ひとつで手玉に取る強いオーラを感じた。
『………ねぇ。貴方の所は、情報も売ってるのかしら……?』
吉岡が紹介したアパートの部屋の見取り図を眺めていた若葉が、突然そんな事を言い出す。
『ご要望とあれば。道具に限らず、出来ることなら何でもしますよ』
そう答えた吉岡を、下から見上げる若葉。その瞳には色気を含み、首筋から醸し出す甘っとろい匂いが次第に濃くなっていく。
それはまるで禁断の果実──思わず貪り付きたくなる程強烈で、吉岡の心を大きく揺さぶり、惹き付けて離さない。
『………それなら。人を探して欲しいの。
僕の愛する、工藤さくらを──』
「やっと──
やっと会えて……若葉と繋がったんだ!
またとないこのチャンスを、みすみす逃したくはなかった。
姫の居場所なら知ってる。その時の姫は、僕の管轄内で凌に飼われていたからね。それに──」
「……」
「樫井秀孝の被害者リスト──姫の情報を事細かく書いてネットに流し、気持ち悪い変態を引き寄せて姫を襲わせたのは……この僕だからね」
「──!」
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