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第338話
「今、黒アゲハを拘束したまま、若葉のいる病院まで運ばせている所だ」
「………!」
「ハハッ。何だその顔は。
もしかして、姫を寝取られるのが嫌だとか?
それとも、兄弟でセックスできるのが、そんなに羨ましいのかな……?」
肩で荒い息をし、押し黙って堪えている五十嵐を揶揄して煽り、意地悪く笑う。
「──違う。最後に工藤を……絞め殺す、のか……?」
「そうだね。必要とあれば」
ザァ──ッ
フロントガラスを叩きつける、激しい雨。
ワイパーが忙しく動くものの、その視界がクリアになるのは一瞬しかなく、次々と襲ってくる無数の雨粒。
歪んで白けていく景色。
狭まっていく視界。
まるで、ここから逃げる事など不可能だと言わんばかりに。
「……」
会話が途切れ、緊迫する車内。
吉岡の言葉に思い詰めたような色を浮かべた瞳が、バックミラー越しにチラリと此方を見る。
「………ねぇ、愁」
僕に頭を撫でられ、甘い匂いを吸い込み、すっかり僕に魅了し虜になってしまった愁は、頬を紅潮させながら、僕の中の若葉を探すかの如く瞳を揺らす。
「僕と楽しいコト、したくないの……?」
言いながら、もう一度愁の太股に手を添えれば……解りやすくそわそわし、落ち着かなくなる。
熱くて荒々しい呼吸を繰り返し、僕の服の中に突っ込んだまま暫く止まっていた手の指が、息を吹き返したかのようにぴくんと痙攣し、ゆっくりと蠢きだす。
「………し、してぇ……よ」
「僕も、だよ。………んっ、……愁にいっぱい触って欲しいし、愁で……いっぱいにされたい………
……だから、ね。……お願い」
とろんと蕩けた瞳を間近に寄せ、添えた手を内腿へと滑らせれば……期待に満ちた愁は、すっかり僕の従順な犬に成り下がる。
───さくら。
「──!」
突然、鋭利なもので背中から突き刺されたような衝撃が走る。
脳裏に響くのは──忘れもしない、寛司の声。
僕を甘やかすような、温かくて優しいその声が……僕の胸をきゅう、と柔らかく締めつける。
その瞬間──奥に押し込めていた、脆くて臆病な僕が存在を主張し、表に出てこようと邪魔をする。
そうした所で、この状況を上手く切り抜けられるとは思えないのに。
───お前、若葉には絶対なるんじゃねぇぞ──
「………」
無理だよ──
心が、震える。良心が疼く。
今なら間に合うと、引き返そうとしたくなる。
でも、そんな事出来ない──若葉みたいにならなきゃ、大変な事になる。
このまま、吉岡の思惑通りに事が運んでしまったら──僕もアゲハも五十嵐も、殺されるかもしれない。
……だから、ごめんね。
言う事を聞かない悪い子で。
寛司の好きな、僕じゃなくて──
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