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第339話

意を決し、ギリッと奥歯を噛み締める。 もう……僕を守ってくれる寛司はいない。 だから、僕がやらなくちゃ。 僕一人の力で── 「………背後(バック)から、()って欲しいな……。愁の硬くて立派な、コレで……」 愁をうっとりと見つめながら、内腿から遠い方の太股へと手を這わせる。そして、パンツのポケットに指先を忍ばせると、その中に入っていた硬いモノ──護身用の折り畳みナイフを摘まむ。 「──!」 「……ねぇ、お願い」 耳元で唇を動かし、ねっとりとした甘い声を聞かせる。 ふっ、と耳の穴に吐息を吹き掛けてやれば……ぶるぶるっ、と愁の身体が戦慄き、快感と性欲にのまれていく様子が窺えた。 合わせた視線を吉岡へと向け、その対象物を愁に指し示す。 「──ゃ、ヤる。……やってやるよ」 自分に言い聞かせるようにぶつぶつと呟いていた愁が、意を決したようにポケットに手を突っ込み、ナイフを取り出す。 パチン…… 取り出された細くて短い刃に、愁の鋭く尖った目元が映る。殺すまではいかないものの、致命傷を負わせる程度にはなるだろう。 「……」 得意気に語る吉岡を、シート越しに下から睨みつける愁。握り締めたそのナイフが、緊張のせいか小刻みに震えていた。 フー、フー、フー、 やらなきゃ、こっちがやられる──それは、僕や五十嵐だけじゃない。 愁も、もしかしたらアゲハも── そんな事、させない。 絶対に── 僕がやらなきゃ。 ……何とかして、止めるしかないんだ……! ………だからいいでしょ、寛司。 今だけは、若葉のように残酷になっても。……いいよね。 ナイフを逆手に握り直す愁の手が、ピタッと止まる。 それだけじゃない──空気も、恐怖や殺気、気配さえも、凪の如くスッと消える。 ゆっくりと……何も持たない左手が、吉岡に忍び寄る。 ……なのに、助手席に座っている吉岡は、何も気付いていないようで。 「……」 ──侮っていた。 僕は勝手に愁を、馬鹿で臆病で、何の役にも立たない……スネイクにとっては足手纏いの存在だと思い込んでいた。 だけど、スネイクの……ましてやカップル狩り兼処理班のメンバーに選ばれているのだから、何かに長けたものがあるに決まっている。 「……」 ……欲しい。 やっぱり愁を、今回限りの使い捨てにはしたくない。上手く飼い慣らして、僕専用の犬に育てたい。 ……初めて飼う、従順な下僕として……

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