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第320話

「深夜帯のBLドラマで、ダブル主演。その挿入歌のPVでは、結ばれた二人の後日談が描かれてて……ドラマには無かったキスシーンや、それ以上の絡みもあったらしい」 「……!」 ──それで……樫井秀孝は、アゲハを……? 初めて僕を思い通りにした夜──樫井秀孝は、確かに僕の事を『アゲハ』と呼んでいた。 他に被害のあった少年達の容姿は知らないけど……アゲハの身代わりとして性交していたなんて、本当に悪趣味な(けだもの)だとしか言いようがない。 「でも。それがSNS配信されてから、僅か一時間足らずで削除。 これから売り込むって時に、黒アゲハの事務所が突然NGを出したらしくて。それで急遽、黒アゲハの代わりを、当時の関係者が必死になって探してたそうだよ」 そう言って、五十嵐が再びテレビ画面に顔を戻す。 探してた──? ……もしかして。 そんな事、あるのかどうか解らないけど……でも、もしかしたらそれで僕は、シンにプロデューサーの森崎を紹介されて…… 「……」 森崎が主催していた謎のパーティー会場。そこに樫井秀孝がいた。 純喫茶にて、森崎と初めて会った時『黒アゲハに似ている』と言われた。 それに臍を曲げて帰ろうとする僕を、逃すまいかと必死になって引き止めた。 やっぱり森崎は、最初から僕を、アゲハの身代わりとして出演させようとしていたんだ。 「……こんな整った、綺麗な顔立ちしてて。爽やかな笑顔と、人を惹きつけるオーラまであって。 周りから『王子様』って呼ばれて愛されるの、解る気がするよ」 「……」 「でも、こっちの『お姫様』も全然劣ってない。 可愛くて、色気もあって……芸能界にいてもおかしくはない位、充分魅力的なのにな。 ……黒アゲハの代わりなんて惜しいけど。もし、当時の関係者がさくらを見つけてくれていたら、って思うよ」 「……」 「そしたらさくらは、こんな……泥みたいな世界に、いなかったのにな」 「……」 そんな訳、ない。 何処に居たって僕は、変わらない。 流されて辿り着く場所は、いつだって泥のような世界だけど…… 掛け布団の端をぎゅっと固く握りしめる。 慰めのつもりか。振り向いた五十嵐の瞳が潤み、哀れんだものを見るような目付きに変わる。 それが堪らなく不快で、堪らなく居心地を悪くさせた。 既にテレビの映像は進み、アゲハの姿はもう……そこには映っていない。

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