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第346話
ザ──ッ
雨音が、容赦なく僕を不安にさせる。
気付いてしまった──
こんな綺麗事を言っていても、握り締められたこの手を振りほどけない事に。
「……」
今、この手に頼らなかったら──僕はこれから、どうやって生きていけばいいんだろう。
この広い世界で、たった一人で、生きていけるんだろうか……
僕の未来を暗示するかのように、遠くの景色が霞んで見える。
「──おいおい、ふざけんなよ」
突然。背後から現れた片腕が、僕の首元を捕らえて絡み付く。
「姫は、これから俺とイイコトすんの。だから邪魔すんなよ、五十嵐ぃ」
そう言いながら、僕の肩越しから顔を覗かせる愁。驚く五十嵐を他所に僕の首筋へと顔を埋めると、クンッと匂いを嗅ぎ、徐に舌を這わせながら柔く食む。
と同時に、反対の手が服の裾から滑り込み、直ぐに見つけた胸の小さな突起をきゅっと摘まむ。
「………っ、!」
ビクンッ、と反応を示せば、愁の興奮した息遣いが、肌に熱く掛かり……
「んっ、……!」
「……あぁ、凄ぇ。堪んねぇな」
愁の身体が更に密着し、僕の腰辺りに硬くて太いモノが当たる。
「早くシてぇよ、姫」
「……」
「別に俺は、ココでも構わねーんだぜ」
わざとだろう。腰を大きく揺らし、硬いソレをぐいぐいと押し付けてくる。指先で、摘まんだ乳首を何度も弾きながら。
「………ゃ、やめっ……!」
自分が撒いた種だとはいえ、人前でこんな醜態を晒されて……堪えられそうにない。
身体をくねらせて愁から逃れようとするものの、その身体は更にぴったりと密着していき──
「てめぇ、いつまで『俺の姫』に触ってんだよ!」
「………!」
僕の手を握っていた五十嵐の手が、スルリとすり抜けていく。
「………いが、らし……?」
声を掛けるものの、その目は見開かれたまま、小刻みに揺れるだけで……
「……」
……ほら、やっぱりそうだ。
五十嵐にとって僕は、それだけの存在なんだ。
もし、こうして囚われてるのが妹の咲良ちゃんだったら、きっと愁を殴ってでも奪い返しただろう。
ザァ──ッ
視線を僅かにずらせば、五十嵐の肩越しに映ったのは先程の巡査官。
僕の視線に気付いたのか。その巡査官が此方へと振り向いた。
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