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第348話

ザァ──ッ 激しい雨音が、容赦なく僕を不安にさせる。 「……」 気付いてしまった── こんな綺麗事を言っていても、握り締められたこの手を振りほどけない事に。 今、この手に頼らなかったら──僕はこれから、どうやって生きていけばいいんだろう。 この広い世界で、たった一人で、生きていけるんだろうか…… 僕の未来を暗示するかの如く、遠くの景色が霞んで見える。 「───おいおいおい、ふざけんなよ」 突然。スッと背後から現れた片腕が、僕の首元を捕らえて絡み付く。 「姫はさ、これから俺とイイコトすんの。だから邪魔すんなよ、五十嵐ぃ……」 ニタついた声を上げ、僕の肩越しから顔を覗かせる愁。驚く五十嵐を他所に僕の首筋に顔を埋めると、すんっと匂いを嗅ぎ、舌を這わせて柔く吸い付く。 と同時に、僕の下腹辺りを弄る反対側の手が服の中に侵入する。指の腹を滑らせ、胸にある小さな突起を探り当てるとキュッと抓む。 「……っ、!」 ビクンッ、と反応を示せば、愁の興奮した息遣いが、首筋に熱く掛かり…… 「んっ、……!」 「……あぁ、凄ぇ。堪んねぇな」 愁の身体が更に密着し、僕の腰上辺りに硬くて太いモノが当たる。 「早くシてぇよ、姫」 「……」 「別に俺は、ココでも構わねーんだぜ」 わざとだろう。腰を大きく揺らし、硬いソレをぐいぐいと押し付けてくる。抓んだ乳首を、指先で何度も弾きながら。 「………ゃ、やめっ……!」 自分が撒いた種だとはいえ、人前でこんな醜態を晒されて……堪えられそうにない。 身体を捩って愁から逃れようとするものの、それを許さないと背面にぴたりと密着してしまい── 「オィ、てめぇ! いつまで“俺の姫”に触ってんだよッ!」 「……、!!」 愁の怒号が飛び、弾かれたように五十嵐の身体が大きく跳ねる。 繫がれた五十嵐の手から力が抜け落ち、スッと離れていく。 「………いが、らし……?」 声を掛けるものの、その目は見開かれたまま、小刻みに揺れるだけ…… 「……」 ………ほら、やっぱりそうだ。 五十嵐にとって僕は、それだけの存在なんだよ。 もし、愁に捕らわれてるのが妹の咲良ちゃんだったら──きっと愁を殴ってでも、奪い返しただろう。 ザァ──ッ 視線を僅かにずらせば、五十嵐の肩越しに見えたのは、先程の巡査官。 僕の視線に気付いたのか。その巡査官が此方へと振り向いた。

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