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第350話 泥の底【キング編】
五十嵐との一件で、初めて気付いた事がある。
それは──僕にとっての絶対的な存在は、いないんだって事。
『あなたもきっと、その子を越える事はできないわ……』──倫の言葉を思い出す度に、今でも胸に突き刺さる。
僕の事を、最後のオンナだって言ってくれた。でも、寛司にとって僕は、本当に絶対的な存在だったんだろうか。
……もし、初恋の人と僕が同時に溺れていとしたら、きっと……
今頃寛司は、天国で初恋の人と再会し、幸せに暮らしているのかもしれない。
……僕の事なんか、忘れて。
「………おら、もっと口開けよ」
はっ、はぁ……はぁ………
瞼を半分ほど持ち上げ、言われるがままに口を開く。そこに男の太い指が二本差し込まれ、僕の頬裏を執拗に弄りながらグイと顔を持ち上げられる。
「……蕾 、良く見ておけ。
セックスってのは、こうやってするもんなんだぜ」
「……」
「見ろよ、この蕩けた顔。……どうだ、堪んないだろ。……ん、」
ズンッ、ズンッ、ズンッ……!
結合部を見せ付けるかように、お尻だけ突き出し四つん這いになっている僕の腰を更に持ち上げ、男が容赦なく抽送を繰り返す。
長さのせいか。太さのせいか。それとも、硬さのせいか──今まで感じた事のない程アレが大きく、質量と圧を感じ、殺人的な凶器としか思えない。
──なのに。
「………ぁああ″ぁっ、……はぁ、はぁ、……」
恐怖と痛さの合間を掻い潜って脳を刺激する、異常な快感。
最奥を突かれる度に全身に鳥肌が立ち、血中に麻薬物質が溶け込んでいくかのよう。熱くて熱くて……もっと欲しいとナカが疼いて堪らない。
「基成 から聞いたぜ。……お前、いきなり突っ込んだんだってな」
「……」
「仕方ねぇなぁ。
こうやって相手を気持ち良くさせとけば、その分報酬が返ってくるんだぜ。
挿れた時の感度が全然違うぞ。……相手も、お前も」
「……」
ベッド脇には目隠しを外した蕾が、待てをされた犬のように大人しく地べたに座っている。
食い入るように、じっと見つめる双眸。
その視線に羞恥を感じつつも、目を逸らす以外、どうする事もできない。
「………あぁ、堪んねぇなぁ……この身体。
ナカは熱くて、とろとろしてて……滑りも締め付け具合も俺好みで。
……おまけに、凄ぇいい匂いがする」
項に顔を埋め、クンッと匂いを嗅いだ後、僕の口から指を引き抜いて上体を起こす。
そして浮き出た僕の腰骨を再び両手で掴むと、ズンッと最奥を突く。
「──あ″あぁ″ぁ……っ、あ…、あ″っ……!」
自然と漏れてしまう矯声。
僕の意思は、もう完全に崩壊してる。
ここに居るのは僕じゃない。
欲に塗れた、只の肉の塊───
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