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第351話
「………さくら」
うつ伏せのまま微動だにしない僕の背中を、ぺちぺちと叩く。
「ヤりすぎたか……?」
「……」
男が、独り言の様に呟く。
その言葉通り、蛍光灯の明かりだけだった室内に、カーテン越しから柔らかな自然光が射し込まれていた。
殆ど意識を失っていたけど、文字通りの『夜通し』。
寛司と初めて会った日も、酷く乱暴にはされたけど……朝になるまで何度も何度も、なんて事は無かった。
身体中が痛くて痛くて、息をするのも辛い。
何より、動けない。
点滴を打って回復したとはいえ、まだ病み上がりの身体には酷すぎる。
「………ヤりすぎだ、馬鹿」
パタンとドアが閉まり、足音と共に誰かが此方へと向かってくる。
「死んだらどうするんだよ」
「………そりゃ、マズいな」
うつ伏せている僕の肩を男の大きな手が掴み、少し乱雑にひっくり返す。
それだけで全身が軋み、痛くて堪らない。
「大丈夫か……?」
一糸纏わぬ姿のまま胡座をかいた男が、僕の身体をひょいと抱き上げる。赤ん坊を抱くような、お姫様抱っこのような格好。くたっとした僕を、心配そうに男が覗き込んだ。
「………」
瞼を薄く持ち上げたまま、此方に真っ直ぐ視線を注ぐ男の瞳をぼんやりと見つめる。
………本当に、知らない顔。
以前に何処かで会った事があるんだろうけど、僕には全く覚えが無い。
「おい、生きてるぜ。……ほら見ろよ!」
随分と嬉しそうに口角を持ち上げ、部屋に入ってきた男に元気よく答える。
「………お姫様が生きてて何よりだな。今後は俺の許可なく触るなよ」
「解 ってるって」
男が返事をする間に、もう一人の男が僕の顔を覗き込む。
ぼんやりとした視界の中に、その顔が映り込んだ瞬間──ぱちんと瞼が持ち上がった。
「そんなに驚いた?……お姫様」
不敵な笑みを浮かべて見せるのは、忘れもしない──金髪蒼眼の。
「──!」
……屋久 基成 。
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