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第354話

「早く開けろっ、!」 「………おいバカッ。ドアを叩くなって言われてんの、忘れたのか?」 ドアの向こう。誰かが近付きながら、怒鳴り散らす男を注意する。 「………あぁっ?!」 「お前、キングに殺されんぞ!」 「………」 ──キング キング、って……? 蕾の方へと視線を移すものの、その瞳は脅えきっていて、微動だにしない。 「そこのワゴンに乗せときゃあ、俺達が離れた頃を見計らって、蕾がドアを開けんだよ」 「はぁ……? 何で手渡しじゃねぇんすか?」 「……お前なぁ、マジで話聞いてなかったのかよ。……蕾はある条件を満たすと、誰彼構わず襲いかかって堀りまくんだよ」 「……」 「あー、あー、信じてねぇな。 覚醒した時の奴は尋常じゃねぇ。 少年院(ネンショー)ん中でそのスイッチが入った事があって。そん時、看守を含めて十数人を拉致監禁し、思うままに野郎共をレイプしまくったんだってよ」 「………はぁ……」 半ば信じられないと言った様子の男の声。 その話なら、以前真木から聞いた事がある。ファミレスで、寛司に飲ませる白い粉を渡された時だ。 僕も話を聞いた時、そんな人が本当にいるのか(にわか)に信じられなかったけど……今なら、容易に想像がつく。 「じゃあキングは、その猛獣を手懐けて部屋飼いしてんすか?」 「……まぁ、そういう事だ」 「……」 「けどな。飼ってんのは、何も猛獣だけじゃねぇんだぜ……」 宥めていた男の声色が一変する。 それまでの先輩風を吹かすような物言いとは違い、舌舐めずりをし下心を丸出しにした……醜く厭らしい声。 「エロくて可愛い、キングのオンナだよ」 「………」 「お前は今日入ったばっかだから、知らねぇよなぁ……」 肩だか背中だかを2度叩く音がし、足音と共に声が遠ざかっていく。 「………」 雨が降りしきる中──車が駐まったのは、竜一が用意してくれたアパートから目と鼻の先にある、二階建ての住宅。 ひび割れて苔の生えた高い塀に囲まれ、庭には雑草が蔓延り、壊れた傘や子供用の黄色い長靴、薄汚れたあひるやシャベル等のプラスチック玩具が散乱している。 基泰に手を引かれ、飛び石の上を歩いて行けば、昭和の匂いがするレトロモダンな戸建ての玄関に辿り着く。

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