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第356話

「………」 男達の戯れ言から推測すると、あの女性達はきっと………屋久と基泰の元オンナだ。 どういう経緯で見限られたのかは解らないけど…… もし僕も、この先飽きられたとしたら……次はあの男達の玩具に成り下がるのかもしれない。 『指一本触れさせねぇから』──あの時は、その言葉を簡単に信じて縋ろうとしてた。 きっと、あそこにいた女性達にも、同じ事を言ったのかもしれない。 自分は特別だと、安心させる為に。 「……」 人の気配が消えたドア向こう。 それを察知した蕾が僕から離れ、怖々ドアへと近付いていく。 カチャッ…… そっと開けられたドアから少しだけ顔を出し、警戒するようにキョロキョロと辺りを見回す。 その仕草はまるで犬や猫のようで、僕を襲った時の猟奇的な気配は一切感じない。 カサッ…… 戻ってきた蕾が、無言で僕の傍にビニール袋を置く。 じっと僕を見下ろす蕾の瞳。それが、僕の左腕へと向けられる。 そこから管を辿り、ホルダーにぶら下がる点滴を捕らえると、しゅんとした様子で袋からおにぎりを取り出す。 ぴりぴりと器用にフィルムを剥がし、きゅっと握って形を整えると、おにぎりの角を僕の口に押し当ててくる。 「──!」 それに驚きつつも従わずにいれば、やがて蕾の口がへの字になり、不満と憂いを帯びた表情を見せる。 「ッ、」 「──!」 何かを言いたげに口をもごもごとし、今度は山の形が崩れる程におにぎりを押し付けてくる。 それでも──頑なに口を開かずじっと蕾を見据えていれば、弾かれたように蕾が数歩後退る。 「……」 小さく揺れる、蕾の瞳。 寂しそうに肩を竦めた後、僕の胸元におにぎりをそっと置いた。 「……」 何か言いたげに小さく口を開けるものの、直ぐに瞳を逸らし、僕から離れていく。 一度も振り返る事無く、部屋の一角にある、二人掛けのソファの方へと去っていった。

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