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第358話
「……」
男達の戯れ言から推測すれば、あの女性達は──屋久と基泰の元オンナだ。
どういう経緯で見限られたのかは解らない。
もし僕も、この先飽きられたとしたら……次はあの男達の玩具に成り下がるのかもしれない。
『指一本、触れさせねぇから』──あの時、その言葉を鵜呑みにして、信じて縋ろうとした。でも、あそこにいた女性達にも、当初は同じ台詞を吐いていたかもしれない。
自分は特別だと、安心させる為に。
しん……
人の気配が消えた、ドア向こう。
それを察知した蕾が僕から離れ、怖々ドアへと近付いていく。
カチャッ……
そっと開けたドアの隙間から少しだけ頭を外へ出し、警戒するようにキョロキョロと辺りを見回す。
その仕草はまるで、犬や猫のよう。僕を襲った時の猟奇的な気配は一切感じられない。
カサッ……
戻ってきた蕾が、無言で僕の傍にビニール袋を置く。
じっと僕を見下ろす蕾の瞳。それが、僕の左腕へと向けられる。そこから管を辿り、ホルダーにぶら下がる点滴を捉えると、しゅんとした様子で袋からおにぎりを取り出す。
ぴりぴりと器用にフィルムを剥がし、きゅっと握って形を整えると、僕の口におにぎりの角を押し当てる。
「──!」
その行動に驚きつつ従わずにいれば、やがて蕾の口がへの字になり、不満と憂いを帯びた表情を見せる。
「ッ、」
「──!」
何かを言いたげに口をもごもごとし、今度は山の形が崩れる程におにぎりを押し付けてくる。
それでも──頑なに口を開けずじっと蕾を見据えていれば、弾かれたように蕾が数歩後退る。
「……」
小さく揺れる、蕾の瞳。
寂しそうに肩を竦めた後、僕の胸元におにぎりをそっと置く。
「……」
何か言いたげに小さく口を開けるものの、直ぐに瞳を逸らし、僕から離れていく。
一度も振り返る事無く部屋の一角にある二人掛けのソファに飛び込み、背中を向けて踞った。
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