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第359話

結局、パスタを数口食べただけで、後は残してしまった。 それでも……点滴を受けた為か、身体が随分と軽い。 前みたいに眩暈はしないし、息切れもしない。酷く疲れる事もない。 こんな感覚は、どれ位ぶりだろう。 それに……基泰や屋久のいない今は、長閑で平和。 蕾は僕の見張り役のつもりでいるんだろうけど、距離をとっていれば、何も怖くない。 落ち着いていられる。 「……」 あんなに眠っていた筈なのに。 窓から降り注ぐ陽射しのせいか、はたまた食べ物を胃に入れたせいか……酷く眠い。 パスタの容器を退け、カウンターに突っ伏す。 気怠さの中に感じる不安。 嵐の前の静けさ。 まるで、あの時みたいだ……竜一に抱かれながら初めて達した時、多幸感に溢れながら感じた、恐怖と不安の影。 だけど、幸せな時に感じる不安と、不幸な時に感じる不安は……全然違う。 予め諦めている分、受け入れ易い。 もし今、突然蕾に襲われたって……突然帰ってきた基泰に、セックスを強要されたって……多分、平気。 その現実を、そのまま受け入れてしまえば……きっと直ぐに楽になれると思うから─── 「……さくら」 耳元で囁かれる、少し甘くて冷めた声。 なのに……やけに熱っぽくて、蕩けてしまいそう…… 「もうこんなになってる……随分とイヤラシイ子になったね」 「………え」 現実が襲い、ハッと我に返る。 下肢の方が、おかしい…… 違和感を感じてぱちんと大きく目を開ければ、カウンターに両手を付いて立ち、お尻を突き出したような格好をしていて……… 「………っっ、!!」 ちゅく、ぢゅぷっ…… 卑猥な水音ばかりが厭らしく響き、身体がゾクゾクと震える。   「もう何度もイってるの……解ってる……?」 「──!」 そう囁いた唇が、僕の耳殻を甘噛みする。 背後から覆いかぶさるようにして、屋久の手が僕の肉茎を扱き、一方で尻の窄まりに指を挿れ、執拗にナカを掻き回す。 「……あ″、ぁあっ、──!」 堪らず声が漏れ、直ぐに唇を噛む。 カウンターについた手のひらをぎゅっと握り、突き上げる衝動を堪えようとする。 「我慢しなくていいよ。羞恥なんて、ここじゃ必要ない」 「……」 いやだ…… 諦めるのと手放すのとは、違う。 「何が違うの?」 「……」 「何にも、違わないよ」 違う……全然違う…… 諦めるのは、僕の中にある大切な核を守る為で──だけど、手放しちゃったら……それすら、失ってしまう…… 「それじゃあ、諦めるって……何を?」 「……」 「ここは、さくらが望む世界そのものだ。 さくらの望みを叶える為に、俺と基泰が用意した──お姫様専用の箱庭なんだよ」

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