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第363話 詫び
×××
「……姫の全快を祝して、乾杯」
「乾杯!」
「……」
暖色系の間接照明。
それらが彼方此方に灯り、ムーディな雰囲気を醸し出す。
部屋の真ん中に設けられた、四人掛けのダイニングテーブル。その上を、ミックスピザや唐揚げ、生春巻き等、居酒屋メニューが所狭しと並ぶ。
僕の相向かいに座る屋久が乾杯の音頭を取れば、基泰がそれに続く。
当然、僕は飲めない。
「………遠慮なんてしないで、どんどん食べな」
「……」
「ソフトドリンクも、いっぱい用意したからね」
相変わらず似合わない笑顔を貼り付ける屋久が、僕に優しく声を掛ける。
「………あぁ、そうか。さくらはまだ未成年か。
残念だな。酒に酔った姫は、最高に色っぽくて、艶めかしいんだろうなぁ……」
「……」
屋久の隣で溜め息をつく基泰がぐいっとビールを呷ると、目を凝らして僕の顔をじっと見る。
「それにしても、可愛いな。
あぁ、堪らねぇ。……今直ぐベッドに連れ込んで、滅茶苦茶に抱きてぇな」
「……馬鹿か、お前。姫はまだ病み上がりなんだ。少しは自重しろ」
「出来るかよ。……あぁ、クソ!」
顔を歪め、欲望を抑えようとする基泰の隣で、屋久は飄々とした表情でカルパッチョを取り皿にとる。
「どう思う、姫?」
「……」
そう言いながら、他にも幾つか見繕い、その皿を僕の前に置く。
何て答えて良いか解らずにいれば、口の両端を更に持ち上げ、目元を緩ませる。
「コイツ、節操ないだろ」
その顔は、今まで見た事のない、偽りのない笑顔を浮かべていた。
「見た目はイケてる癖に、下半身はだらしない男でさ。
中学・高校と、言い寄ってきた女を取っかえ引っかえだったんだぜ」
「……オイ。まるで俺が、ヤリチンみてぇな言い方じゃねーか!」
「ヤリチンだろ?……巷じゃ『性欲モンスター』なんて呼ばれてたんだからな」
「何だそりゃ。初めて聞いたぞ」
「……ハハ。それはお前が、人の話を……──」
「……」
何だろう……
仲の良い友人同士が雑談している中に、関係のない僕がぽつんといる感じ。
疎外感。
居心地の悪さ。
まるで、テーブルを挟んで向こう側と此方側を、薄い膜のようなものが隔てていて……決して交わる事など出来ない空気。
でも。
何でだろう……
基泰と話している屋久の表情が、今まで見た事がないくらいに自然で、懐かしい昔話を、心から楽んでいるように見える。
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