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第367話
───どうして。
どうして倫の料理が、ここに──
「基和 ……いや、吉岡に手配させたんだ。姫に散々非道い事をした、今までの詫びをしろってね」
「……」
……え……
ザァ──
脳裏に映し出されたのは──降りしきる雨の中、巡査官扮する屋久が吉岡に正体を打ち明け、計画を中止するよう宥めている姿。
確かに、あの瞬間……それまでの立場が入れ替わったように見えた。
「ちゃんと説明してやれよ。姫が困って、固まってんじゃねぇか」
「……そうだね」
料理に手を付けながら、基泰がそう口を挟めば、それに同意するかのように屋久が目配せをする。
その視線が再び僕に向けられると、蒼い眼が僕を文字通りに捕らえ、感情の伴わないビー玉のように輝く。
「基泰と俺、基和は──兄弟なんだよ」
え──
……兄弟……?
『───お前さぁ、何でずっと俺に気付かねぇかなぁ……』
確かにあの時……そう言っていた。
兄弟なら、屋久が整形して姿形が変わったとしても……声や話し方、時折見せる仕草や癖などで、何となく勘付くものなのかもしれない。
あの時感じていた違和感というか、ずっと心の奥で引っ掛かっていたものが解け……何となくだけど、スッキリする。
持っていたスプーンで、もう一度マッシュポテトを掬う。
相変わらず、倫の料理は……美味しい。
食べる相手が僕だと解っていて、作ったんだろうか。
それとも……波風立てぬよう、一切を伏せて注文したのだろうか。
「……」
あれ……
……でも、待って。
確か吉岡は、太田組組長の──『隠し子』だった筈。
ゾクッ──
その瞬間、背筋に寒気が走り、鉛を飲み込んだように胃が重くなる。
それじゃあ、この二人は………組長の───
マッシュポテトを口に含んだまま視線を上げれば、二人の双眸が真っ直ぐ僕に向けられていた。
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