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第365話
──どうして。
倫の料理が、ここに──
「基和 ……いや、吉岡に手配させたんだ。姫に散々非道い事をした、今までの詫びをしろってね」
「……」
え……
脳裏に映し出されたのは──降りしきる雨の中、巡査官扮した屋久が吉岡に正体を打ち明け、計画を中止するよう宥めている姿。
確かにあの瞬間、それまでの立場が入れ替わったように見えた。
「ちゃんと説明してやれよ。姫が困って、固まってんじゃねぇか」
「……そうだね」
料理に手を付けながら、基泰がそう口を挟めば、それに同意するかのように屋久が目配せをする。
その視線が再び僕に向けられれば、蒼い瞳が僕を捕らえ、感情の伴わないビー玉の様に輝く。
「基泰と俺、基和は──兄弟なんだよ」
「……」
──え、兄弟……
『──お前さぁ、何でずっと俺に気付かねぇかなぁ……』
確かにあの時……そう言っていた。
兄弟なら、屋久が整形して姿形が変わったとしても……声や話し方、時折見せる仕草等で、何となく気付くものなのかもしれない。
あの時感じていた違和感というか、ずっと心の奥で引っ掛かっていたものが解けて……何となく、ほっとする。
持っていたスプーンで、もう一度マッシュポテトを掬う。
相変わらず、倫の料理は……美味しい。
食べる相手が僕だと解ってて、作ったんだろうか。
それとも……波風立てぬよう、一切を伏せて注文したのだろうか。
「………」
あれ……
……でも、待って。
確か吉岡は、太田組組長の──『隠し子』。
……ゾクッ。
瞬間、何故かは解らない……
背筋に寒気が走り、鉛を飲み込んだように胃の中が重くなる。
それじゃあ、この二人も……組長の──
マッシュポテトを口に含んだまま視線を上げれば、二人の双眸が真っ直ぐ僕に向けられていた。
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