379 / 558
第376話
「………ほら、こっちも開けてごらん」
僕の唇や歯列をこじ開け、屋久の指先が侵入してくる。
「涙目になってるね。そんなに苦しい?
……でも、駄目だよ。そんな顔しても。
今日はお仕置きなんだから……優しくなんて、しないよ」
「………」
にちゃ……
屋久の親指の腹が、頬裏を執拗に弄る。
そうしながら、顎を更に持ち上げ、上体を起こさせようとする。
それに従い、入らない力を懸命に籠め、ベッドに手を付いて肘を伸ばす。
「その絶望した顔……堪らなくそそるね。……ほら、舌も出してごらん」
冷静で……でも少しだけ甘く、優しい声色。
後ろを犯される度に、壊されていく思考──
「……」
僅かに舌先を出して見せれば、屋久がそれを摘まんで引っ張る。
「この舌で、俺のを愛撫するんだ。解るな?
……絶対に、歯を立てるなよ」
その指が、濡れそぼつ僕の舌をゆっくりと円を描くように擦る。もう片方の手で前を寛がせ、剥き出されたモノ──てらてらと先走りで光る、そそり立った屋久の怒張。
「………かはっ、」
ゴポッッ──
息つく暇も無く、咥内に熱いモノが押し込まれる。
そのまま──その切っ先が喉奥を容赦なく突き、苦しさと嗚咽でぼろぼろと涙が零れる。
「──いい顔だな。
最高。堪らないよ……」
随分と冷静な声。
本当にそう感じているのか──解らない。
僕の頬をひと撫でし、後頭部に移動すると、屋久の腰が大きく動く。
「───っ、! ……ぅ、う″ぇ……!」
胃の奥から迫り上がる、内容物。
尋常じゃない程身体が震え、全身に寒気がし──いつのか解らない、忌まわしい過去の残像だけが蘇る。
『……姫』
『本当は、カンジてんだろ?』
『ハイジの代わりに飼ってやるよ』
『──次は、俺だ』
『オイ、早く回せよ』
やけにくぐもった、男達の声。
まるで、水中に潜っているかのよう。
ガボッ……、
肺の中の空気が全部抜かれ、音を立てて泡が揺らめきながら上昇する。
開いた口。そこに、張り詰めたモノが勢いよく押し込まれる。
そこに、僕の意思なんて無い。
上も下も……穴という穴が全て塞がれていき、次から次へと襲ってくる、恐怖と痛み──
カチ、カチ、カチ……
間近で聞こえる、不穏な音。
と突然、目の前の暗闇に現れたのは……鋭く光る、カッターの刃先。
──!
その瞬間、硬直する身体。
その刃が空を切り裂き、僕の身体に襲い掛かる。
『──……い、ぁああ″ぁっ、……!』
流れる血、血、血──
どんなに泣き叫んだって……ハイジの元には、届かない。
ヤニ臭い、小さなアパートの一室。
僕の上に跨がる男が、僕を押さえつけ、キャンバスに絵筆を走らせるように、僕の身体を切り刻んでいく。
流れる血──そこから生まれる、痛みと熱。
ともだちにシェアしよう!