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第376話

「………ほら、こっちも開けてごらん」 僕の唇や歯列をこじ開け、屋久の指先が侵入してくる。 「涙目になってるね。そんなに苦しい? ……でも、駄目だよ。そんな顔しても。 今日はお仕置きなんだから……優しくなんて、しないよ」 「………」 にちゃ…… 屋久の親指の腹が、頬裏を執拗に弄る。 そうしながら、顎を更に持ち上げ、上体を起こさせようとする。 それに従い、入らない力を懸命に籠め、ベッドに手を付いて肘を伸ばす。 「その絶望した顔……堪らなくそそるね。……ほら、舌も出してごらん」 冷静で……でも少しだけ甘く、優しい声色。 後ろを犯される度に、壊されていく思考── 「……」 僅かに舌先を出して見せれば、屋久がそれを摘まんで引っ張る。 「この舌で、俺のを愛撫するんだ。解るな? ……絶対に、歯を立てるなよ」 その指が、濡れそぼつ僕の舌をゆっくりと円を描くように擦る。もう片方の手で前を寛がせ、剥き出されたモノ──てらてらと先走りで光る、そそり立った屋久の怒張。 「………かはっ、」 ゴポッッ── 息つく暇も無く、咥内に熱いモノが押し込まれる。 そのまま──その切っ先が喉奥を容赦なく突き、苦しさと嗚咽でぼろぼろと涙が零れる。 「──いい顔だな。 最高。堪らないよ……」 随分と冷静な声。 本当にそう感じているのか──解らない。 僕の頬をひと撫でし、後頭部に移動すると、屋久の腰が大きく動く。 「───っ、! ……ぅ、う″ぇ……!」 胃の奥から迫り上がる、内容物。 尋常じゃない程身体が震え、全身に寒気がし──いつのか解らない、忌まわしい過去の残像だけが蘇る。 『……姫』 『本当は、カンジてんだろ?』 『ハイジの代わりに飼ってやるよ』 『──次は、俺だ』 『オイ、早く回せよ』 やけにくぐもった、男達の声。 まるで、水中に潜っているかのよう。 ガボッ……、 肺の中の空気が全部抜かれ、音を立てて泡が揺らめきながら上昇する。 開いた口。そこに、張り詰めたモノが勢いよく押し込まれる。 そこに、僕の意思なんて無い。 上も下も……穴という穴が全て塞がれていき、次から次へと襲ってくる、恐怖と痛み── カチ、カチ、カチ…… 間近で聞こえる、不穏な音。 と突然、目の前の暗闇に現れたのは……鋭く光る、カッターの刃先。 ──! その瞬間、硬直する身体。 その刃が空を切り裂き、僕の身体に襲い掛かる。 『──……い、ぁああ″ぁっ、……!』 流れる血、血、血── どんなに泣き叫んだって……ハイジの元には、届かない。 ヤニ臭い、小さなアパートの一室。 僕の上に跨がる男が、僕を押さえつけ、キャンバスに絵筆を走らせるように、僕の身体を切り刻んでいく。 流れる血──そこから生まれる、痛みと熱。

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