390 / 558
第387話
「……さぁ、着いたよ」
ガタン。
助手席のシートが倒され、おじさんが女性の上に跨がる。
縛った両手を座席のヘッド部分に引っ掛け、脱がせたジーンズを後部座席へと放り投げる。
低い所で、暫く淫らな水音がしたかと思うと、女性の左足が持ち上げられ、少し力の抜けたおじさんの溜め息が聞こえた。
上下に揺さぶられる女性。
その動きに合わせて揺れる車内。
は、は、は、……と、湿気を含んだおじさんの短い吐息。ギラついた眼光。
その異様な光景が、大きく見開かれた蕾の瞳の角膜に、強く焼き付けられる。
「………いいか、蕾。女はよく、『嫌』『止めて』と騒いで抵抗するが……それは全て、場を盛り上げる為の演技だ。
喜んでるんだよ。
男の欲望を煽って、乱暴に犯されたくてな」
「……」
「いいか。よく覚えとけ」
見開かれたまま、微動だにしない蕾の瞳。
瞬きも忘れ、ただ、その異様な光景をじっと見つめる。
初めて映るソレに、恐怖と異常さを感じながらも、悪い夢でもみているかのような感覚に陥る。
現実だと思いたくない。……でも、動けない。
まるで、無機質なものに成り代わったかのような錯覚さえ起きる。
車内に設置された、小型カメラのように──
──カランッ。
「……」
氷が溶け、グラスとぶつかった涼やかな音がして、ハッと我に返る。
「………おねえさん……は、それからずぅっと、うごかなくて……
それで、おじさんが……うめた……」
「───!」
そんな………
犯罪のほう助を強要された上に、数々の酷い光景を見せ続けられたなんて……
動揺し、大きく揺れる視界。
直ぐに蕾から視線を外し、目の前にあるグラスに手を伸ばす。その表面が結露で濡れていて、指に纏わり付く感覚が気持ち悪く……直ぐに手を離した。
「……」
「それから、おじさんは──」
人を殺めてしまったせいか。それとも、発覚を恐れた為か。──おじさんは、大人しかった。
部屋から絶対に出るなと、蕾と類を脅して監禁。暫く外へは連れ出さなかった。
夜遅く仕事から帰ってきては、売れ残ったスーパーの惣菜やお弁当を二人に与える日々。
「……あぁ、ヤりてぇな」
箸で弁当を突っつきながら、おじさんが小さくぼやく。
ともだちにシェアしよう!