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第388話
──あぁ~んっ、あん、あんっ……
徐に立ち上がり、押し入れから引っ張りだしたのは──段ボールに入った大量のアダルトビデオ。その全てのパッケージに写っているのは、裸体を晒した髪の長い女性ばかり。
それを、食事を摂る幼子の前で堂々と鑑賞し始める。
「……あぁ、溜まんねぇな」
汚い部屋に鳴り響く、鼻から抜けるような女の嬌声。
テレビ画面に映し出されているのは、おじさんに命令されて声を掛けた──あのお姉さんによく似た女性。
「──!」
ドクンッ──その瞬間、蕾の心臓が高鳴る。
じわじわと蝕んでいく、蕾の心。
あの時行われた数々の光景が、何度も何度も繰り返し思い出され……蕾を執拗に責め立てる。
そんな蕾を他所に、不意に振り向いたおじさんが、目に止まった蕾の顔をじっと見つめる。
「………類」
「……」
「ちょっと、こっちにおいで」
お弁当を、一所懸命割り箸を使って食べている類に、突然おじさんが声を掛ける。手を拱き、気持ちが悪い程の笑顔を見せ、薄気味悪い猫なで声を上げながら。
「お前に仕事を与えてやる。類にしかできない、特別な仕事だよ」
「……」
「……ほら、おいで」
「──!」
嫌な予感がした蕾が、立ち上がろうとする類を引き止める。
「しごとなら、ぼくがしますからっ。だから、類には──」
「うるせぇ! 野郎はすっ込んでろッッ!!」
鬼のような形相。鳴り響く怒号。
蕾を睨みつける、吊り上がった双眸。浮き上がる青筋。
意を決して発した蕾の言葉は……いとも簡単に払い除けられる。
「………る……類には……」
震える声。指先。
それでも──類を必死に守ろうと、恐怖に耐えながら、懸命に声を絞り出す。類を背中に押しやり、自ら盾になって。
「………ククク」
そんな蕾に、おじさんが冷酷な微笑を浮かべる。どろどろとした雰囲気は、醸し出したままで。
「………なぁ、蕾。さっき言ったろ? これは、類にしかできない仕事なんだよ」
「……」
「お前は黙ってそこで見てるか………大人しく飯でも食ってろ」
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