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第391話
微動だにしない瞳。
瞬きも忘れる程思い詰めた双眸が、真っ直ぐカウンターの一点を見つめていた。
「……それから、しばらくして……おじさんは……けいさつにつかまって……
それで……ぼくとるいは……ほご、された……」
被害女性の一人が、勇気を振り絞って声を上げた事で、事件が発覚。おじさんは逮捕された。その後、現場の山林から女性の遺体が発見されると、殺人の容疑で再逮捕。
命令されたとはいえ、レイプやそのほう助をした蕾は、全てを証言した事や未成年である事。監禁や洗脳等、過酷な環境下に置かれていてやむを得なかった事。他、情状酌量の余地ありとして、保護観察となった。
「………いいか、蕾。
お前もいつか、俺のようになる。これは、逃れられない運命なんだよ。
どんなに被害者ぶったって、お前の身体の中には俺の血が流れている。
黒くて長いものを見ると、犯してやりたい衝動に駆られる、汚い血がな」
警察に連行されるおじさんが、ニヤついた顔付きで、ぼそりと蕾にそう言い放つ。
その言葉は凶器となって、蕾の心を容赦なく突き刺し、引き抜く事を許さなかった。
やがて、引き取り手のない二人は、一時保護を受けたものの……
そこはまるで別世界──明るい光に満ち溢れていて、蕾にとっては眩しすぎる場所だった。
当たり前のように施しを受け、大人からは優しい言葉を掛けられる。その余りの環境変化の落差に、蕾の精神は錯乱し、上手く順応していく事ができなかった。
「……きづいたら……おそってた……
おじさんみたいに、ぼくが……」
激しく呼吸を乱し、瞳を揺らした蕾が、広げた両手を見つめる。
「ほんとうは……もう、したくないのに………ぜんぜん……とめられ、ない……」
嗚咽混じりに思いを吐き出すと、息を荒げて肩を震わせる。
「ながくて、くろいものをみると……あたまのなかで、こえがきこえる……
……おじさんが……ぼくに、めいれい、するこえが………ずっと……」
「……」
「ずっと、ずっと……きこえる……
そしたら……あたまがおかしくなって……わけが、わからなくなる──」
酷い、冷や汗。
目を大きく見開いたまま、ぶるぶると髪や肩を震わせ……広げた両手で頭を抱える。
そのままグシャッと横髪を鷲掴み、まるで毟り取るかのように強い力で引っ張る。
「………ぼくは、おかしい……んだ……」
「……」
「おかしい……」
「……」
身を縮めて脅えるその様は──まるで、幼い頃の僕のよう。
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