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第395話
後ろ髪を掻き分けられ、剥き出される細い項。その出っ張った骨に指先が触れ、つぅ…と滑り下りていく。
「照れてんのか?……本当、可愛いな……お前」
そう囁いた基泰が、ギュッと僕を抱き締める。
首筋に埋められる熱い唇。
吐き出される熱い息。
そこから舌が這い出され、柔く食みながら軽く吸い、何度も何度も嬲る。
その度に肌が粟立ち──引き出される、昨日の情事……
「こっちも、美味いな……」
「……」
「………ああ、早く喰いてぇ」
不意に、立てられる歯。
その瞬間──ゾクンッ、と身体が震える。
意思とは関係なく、身体の深部から快感が溢れ出し……呼吸が少し乱れ、心臓が大きく鼓動を打ち、身体が熱くなっていく。
「なぁ、お姫サマ。……もっと味見しても、いいか……?」
「え……」
基泰の、甘くて蕩けそうな……熱い声。
僕の同意も得ぬまま、直ぐに耳下の顎の付け根へとキスを落とす。
手のひらで僕の頬や横髪を包んだ後、その指が耳殻を弄り、半ば強引に顔を基泰の方へと向けさせられて………
「………っ、」
重ねられる唇。
その門戸が舌先で叩かれれば、身体はそれを簡単に許してしまう。
こんなの、嫌なのに。
──嫌なのに。
クチュ……ちゅ、……
半ば強引に侵入した舌が、執拗に咥内 を掻き回す。
その度に溢れていく、混ざり合った唾液。──絶望感。
「………」
心と身体が、引き剥がされていく。
それまで感じていた人間らしさが、唇から吸い取られ、奪われていく。
また……惨めで情けない僕へと、戻っていく。
いつもみたい全てを諦め……
ただ、事の成り行きに身を任せるだけの……僕に。
「………はぁ、……まだ食い足りねぇ……」
間近で見つめる、劣情を含んだ瞳。
奥二重で切れ長で、色素の薄い黒眼。
この瞳に見つめられると、不思議と胸の奥が熱くなって……目が、離せなくなる。
ザァァ……
降り頻るあの雨の中──巡査官に扮した基泰と、初めて目を合わせた時みたいに……
「………なにしてんの。基泰」
突然響く、屋久の声。
淡々としながらも、何処か警告するような口調。
「忘れ物を取りに戻っただけ、だよね」
「……」
「ね……?」
穏やかながら、威圧的な言葉尻。
ここから見えなくても、その表情は想像出来る。
「──それから基泰」
「……」
「俺の許可無く、……姫に手、出すなよ?」
それまでの空気が変わり、一瞬でピンと張り詰める。
堅い表情に変わった基泰が、僕を冷めた目で見下ろす。
「………ああ、解ってるよ……」
「なら、それでいい」
「………」
ギィ、とドアの開く音がし、屋久の足音がその向こうへと遠ざかっていく。
「いいもんか。……これ以上触れたら、壊れちまうだろうが──!」
そう小さく吐き捨てた基泰が振り返り、バタンッと閉まるドアを睨みつける。
鋭く尖り、思い詰めたような瞳で。
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