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第396話 共有
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それから数日。
何事もなく、平凡で平坦な日々が続いた。
朝起きて、簡単に部屋の掃除をし、屋久を除いた三人分の食事を作る。
天気の良い日は手洗いで洗濯をし、カーテンを開け放して日当たりのいい場所に部屋干しする。元々持っている服は少なく、蕾の分を合わせても、それ程苦じゃない。
スネイクのアジトから出る時に持ってきた、黒のタンクトップ。
胸元には、闇夜を舞うパステルブルーの蝶。螺鈿細工を遇ったような、七色に輝く美しい羽根。
今は季節柄、もう着る機会はないけど。これは、寛司が僕に買ってくれた、唯一のものだから。
絶対に、手放したりなんかしない。
「………それ、綺麗だな」
裸で横になっていた基泰が、むくりと起き上がり、日当たりの良い床で服を畳んでいる僕に声を掛ける。
上掛けが剥がれ、露わになった基泰の上半身──しっかりと筋肉の付いた、太い腕。広い肩幅。割れた腹筋。……男らしくて、強そうに見える。
「………うん」
あの日以来、基泰はそういう事をしてこない。それ処か、僕に指一本触れない。例え一緒のベッドで寝たとしても、境界線をしっかりと引いているようで……僕の領域に侵入してくる事は無かった。
『俺の許可無く、……姫に手、出すなよ?』──屋久にそう、釘を刺されたからだろうか。
背を向けて寝ていても、隣から感じる気配。ふわりと鼻を擽る基泰の匂い。その度に、抗いたい程の欲求が込み上げてきて………
「ちょっと、着てみせろ」
「………え」
ハッと我に返り、慌てて基泰に焦点を合わせれば……ベッド端に座り直した基泰が、柔らかな視線を向ける。
「……」
恥ずかしさを押し殺し、腕をクロスして裾を掴む。
ぺらりと薄いシャツを捲り上げ背筋を伸ばせば、柔らかな陽射しが僕の肌を照らす。
薄くて、頼りない身体。
只でさえ色白の肌が、光に溶け込んで更に白くなってしまったような気がする。
するりと細い腕を通し、裾を下に伸ばして整えれば……陽の光に反射した螺鈿細工の羽根が、より一層優美に煌めく。
キラキラ、キラキラと……
「似合うな」
「……」
そう呟いた基泰が徐に立ち上がり、クローゼットの扉を開ける。
「………ほら。これ着てみろ」
「……」
投げて寄越されたのは、白い長袖のシャツ。
基泰のだろうか。羽織ってみると大きくて、ぶかぶかする。
「よし、決まりだな」
「……」
「今から、出掛けるぞ」
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