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第398話

「………ここだ」 不意に止まる、基泰の足。 見上げれば、路地裏へと続く細い道と、一階にコンビニのある商業ビルの間に挟まれた、縦に細長い三階建てのゲームセンターが。 「入るぞ」 「……え……」 戸惑う僕に声を掛け、基泰がその中へと入っていく。 店内に流れるポップミュージック。 様々なゲーム機から発する騒がしい音。 やけに明るい照明。 「……」 音ゲーとクレーンゲームの間を通り過ぎ、奥の階段を上る。 二階は一階よりも薄暗く、そのせいか、巨大なゲーム機から発する様々な光が際立って見える。それはまるで、馬のいないメリーゴーランド。その周りに座る人々。ジャラジャラとコインの音がする所をみれば、ここはメダルゲームのコーナーなんだろう。 そこも素通りし、更に三階へと進む。 突然鳴り響くファンファーレ。競馬のゲームだろう。壁側にある大きな液晶にはCGの競馬場と競走馬が映っていて、その前にあるシートに、何人が座っている。 その奥に見えるのは、シューティング等の体験型ゲーム。それから…… 「……よぉ」 格闘ゲーム機の前に座り、コントローラを忙しく動かしながらボタンを連打する制服姿の女性。その横につき、基泰が声を掛ける。 斜め上を睨みつけるようにして、その彼女が基泰の顔を瞬時に確認すると、咥えたチュッパチャプスを口の中で転がす。 「──遅い」 「そりゃ、悪ぃな」 「……」 女性が催促するように片手のひらを基泰に見せれば、基泰が腰ポケットから茶色い封筒を取り出す。 「ほらよ」 「……」 「前回からまだ、日が浅くねぇか?」 その手のひらに封筒を乗せた後、そう言いながら隣の椅子に腰を掛ける。 「……無理、すんなよ」 受け取った茶色い封筒の中身も確認せず、彼女はそれを台の上に置く。 派手な格闘技を繰り広げた後、画面に表示された『YOU WIN』の文字。 「基泰(やす)こそ──」 「……」 「大事なお姫様を、こんな所に連れ出していいの……?」 放り出していた茶封筒を鞄に仕舞いながら、彼女が横目でチラッと僕を見る。 太くて長い睫毛。 派手な顔立ち。 ポニーテール。 ──間違いない。 箱庭で、僕の点滴針を抜いた人だ。

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