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第399話

「……元気になったんだ」 「……」 「まぁ、私には関係ないけど」 ボソリと呟く声。鋭く冷たい瞳。 スッと視線を外され、再び格ゲー画面へと戻る。 「基成には内緒な」 「……」 「な、M」 「──それなら。それなりの事をしてみせてよ」 彼女の冷静な返しに、ふぅと溜め息をついた基泰が、少しだけ腰を浮かせてポケットに手を入れる。 「………ハマりすぎんなよ」 「……」 取り出した茶封筒を叩きつけるように置けば、それに反応した彼女が基泰に黒眼を向け、口の端を持ち上げる。 『そんなの解ってるわよ』『当然』とでも言うかのように。 ゲームセンターを抜け、表通りに出る。 新旧入り混じった多くの店舗が建ち並び、人通りも多く賑わっている。 「……」 あの人……一体誰なんだろう。 斜め前を歩く、基泰の背中を見ながらぼんやりと考える。 基泰とも屋久とも、親しい仲……みたいだった。 ──それに、あの茶封筒。 最初は、お金が入っているのかと思ったけど……二つ折りにされていたそれは、折り目部分が平たく、とても紙幣が入っているようには見えなかった。 『……ハマりすぎんなよ』──あれは、どういう意味だったんだろう。 以前、基泰から受け取るようにと、屋久がMに言っていたものと同じものなんだろうか。 「……気にすんな」 そんな僕に気付いたのか。振り返った基泰が、そう声を掛ける。 焦点を合わせて見上げれば、その顔に憂いが見え隠れしていた。 「Mのドライさは、今に始まった事じゃねぇ。 ……言い方は悪いが、あれでもさくらを気に掛けていたようだ」 「……」 別に、Mの言動に傷付いた訳じゃない。 ただ──二人とは対等な関係なんだなって。 人を寄せ付けず、感情を余り見せないにも関わらず、二人の人形(オモチャ)にされてる僕とは違って……凛としていて、格好いい。 「腹、減ってねぇか?」 「……」 「ちょっとその辺、寄ってから帰るか」 「……」 そう言った基泰が、柔らかな笑顔を見せる。 「……」 ……もしかして…… 僕を、慰めようとしてくれた、の……?

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