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第400話

××× 「お待たせ致しました」 目の前に置かれた、背の高いチョコレートパフェ。 巻き上げた生クリームの脇に、チョコブラウニーとバナナ、ポッキー二本がバランス良く添えられ、その上からチョコレートソースとアーモンドダイスが掛かっている。 「美味いから、食ってみろ」 「………」 パフェの向こうに見える基泰が、嬉しそうに微笑む。 パフェの高さにも、その表情にも戸惑いながら、手前に置かれた細長いスプーンを拾う。 ここは、煉瓦調のお洒落なカフェ店内。周りを見渡せば、客は殆ど女性しかいない。 そんな中、男二人……しかも、厳つくてガタイの良い基泰が、腕を前に組んで長椅子に仰け反っていたら……かなり目立ってしまう。 「……」 生クリームとチョコレートが掛かった部分を、スプーンの先で掬い取る。 甘い油脂が口いっぱいに広がり……飲み込んだ直後、胃の痛みと気持ち悪さに襲われる。 「……」 美味しいと薦められたのにも関わらず、余りに申し訳なくて…… 目を伏せれば……背を浮かせた基泰が、テーブルに組んだままの腕を置き、顔を前に突き出す。 「………味見、させろ」 「……え、」 更にその顔が近付き、あーんと口が開く。 「うん……」 さっきよりも多めに掬い、基泰の口へと運ぶ。 良く解らない、甘くて柔らかな雰囲気。 別に、キスを要求された訳じゃないのに……恥ずかしくて。 胸の奥が、ヘンに擽ったい。 「………」 「間接キス、だな……」 ごくんと飲み込んだ基泰の唇が小さく動き、ぼそりと呟く。 その瞳は穏やかで。嬉しそうで。 どう反応していいか解らずにいれば、突然基泰がふっ、と笑みを漏らす。 「汚れのねぇ目、して──」 「……」 「──本当、可愛いな」 汚れのない……って。 基泰こそ、間接キス……だなんて…… そう、心の中で突っぱねてみるけど。 向けられる眼差しは穏やかなままで……何だか調子が狂う。 「……」 ふと、心の中に浮かび上がったのは……シニカルな笑顔の竜一。 その幻影が、目の前の基泰と重なれば……次第に基泰が、竜一に似ている事に気付く。 「───!」 ──そう、か…… だから……基泰に触れて欲しいと、僕の身体が勝手に疼いたり、ドキドキが止まらなかったり…… それに──あの日。 降りしきる雨の中、巡査官扮する基泰の風貌に、一瞬で引き込まれて……差し伸べられた手を─── 「……」 ……でも…… 幾ら似ていようとも……竜一じゃない。 勘違いしちゃ駄目だ。 目の前にいるのは、紛れもなく『基泰』なのだから。

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