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第401話
「………夢だったんだよな。
こうして好きな奴と、二人っきりでデートするのが」
組んだ腕を外しながら、後ろにもたれ掛かる基泰。再び仰け反り、ガラスの向こうに見える街の様子に目を向ける。
「俺は昔から、基成 と色んなものを『共有』してきたからな……」
「……」
『共有』──そうか。
二人は今までずっと、そうやってきたんだ。
デートの時も、アレの時も………一体、どんな感じで、どんな気分だったんだろう。
「………それなら、どうして……」
「……」
抱いてしまった疑問を、つい口から漏らしてしまう。
此方に向けられる視線。見開いた瞳。
一瞬の沈黙の後、テーブルに片腕を乗せた基泰が、右手の指四本を立て、トントン…とリズムカルに二度叩く。
「俺は正真正銘、親父 と正妻の間の子だ。……他に兄弟はいねぇ。
親父の舎弟っていうのか? ソイツらがよく屋敷に来た時、俺は無条件にチヤホヤされた。でも、何の取り柄も魅力もねぇから、裏では『ボンクラ息子』だと陰口叩かれててな。自慢にもならねぇ息子に、愛想を尽かしたんだろう。
ある日──親父が、他所の子を引き取ってきたんだよ」
「……」
「──それが、基成だ」
屋久基成──端整な顔立ちながら、無口で、無表情で。
長い睫毛の奥に潜む涼しげな瞳は、何処か輝きを失い、冷たい印象を与えた。
まだ小学三年生にも関わらず、落ち着いた態度。大人びた雰囲気。
学校で受けるテストは常に満点。スポーツ万能。外面の良さから、先生からの受けは良く、イケメンで優しいと女子から高い人気があった。
そのせいか。四年生になる頃には、上級生を差し置いて生徒会長に推薦されるまでになっていた。
「………基成は、親父の心をも掴んでいて、俺はいつも蚊帳の外だった──」
真っ直ぐ向けられた瞳の中に、憂いの色が混じっていく。
「……」
……似てる……
幼い頃の、僕の立ち位置に。
物心ついた頃から愛情を注いで貰えず……皆から王子様と呼ばれ、人気のあった兄のアゲハの陰にひっそりと隠れて生きるしかなかった──僕に。
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