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第402話

「このまま、見離されるかもしれねぇって焦った俺は、必死で拳を鍛えた。……基成にも、誰にも負けねぇ位、強くな。 当然、挑まれた喧嘩は全て勝利。箔の付いた俺は、その辺の奴等から一目置かれる存在にのし上がったんだ」 「……」 「──で、中学に上がって直ぐの頃。街中でガラの悪い野郎に絡まれてる所を助けた女がいてな。……その後、校内で俺を見掛けたからって、その子の方から話し掛けてくれてよ。 笑顔が眩しくて、可愛い()だった…… 基成じゃねぇ。この俺を真っ直ぐ見てくれてんだと思ったら、堪らなく愛おしくなってな。………思い切って、デートに誘ったんだ」 「……」 「でも俺は、ただ彼女と一緒に街をぶらついて、一緒にパフェが食いたかっただけだ。別にやましい事は、これっぽっちも考えてなかったんだよ。……けどな」 そこまで言って、基泰が言葉を詰まらせる。 瞳の中の光が消え、ここではない何処かを映し、次第に憂いの色を濃くしていく。 彼女との待ち合わせ場所である、洒落た小さな喫茶店。 入って店内を見回せば、一番奥の角にあるボックスシートに座り、パフェを食べている彼女の姿が見えた。 ホッと笑みを漏らし、軽い足取りで近付いていく基泰。しかし、その距離を縮める毎に露わになっていく、磨りガラス風のパーティションの向こう側。テーブルの上には、パフェの他にコーヒーがひとつ。 そして、楽しげに談笑する彼女の、相向かいに座っていたのは─── 「遅かったな」 ──屋久基成。 「──!」 目を見開く基泰。 そんな基泰の姿を見ても、特に動じる事無く……寧ろ優越感に浸ったような表情を浮かべてみせる屋久。 「お……まえ、……」 「……まぁ、座れよ」 「………」 口の両端を吊り上げ、愛想笑いをした屋久が隣をポンポンと叩く。 その向かい──基泰と視線が合った彼女は、ビクッと肩を跳ね上げ、脅えた表情を隠すようにして俯く。 「………」

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