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第403話
複雑な心境のまま、渋々と通路側に足を投げ出すような形で腰を下ろす。
「何か頼む?」
「………、いらねぇよ」
肩を寄せ、メニューを広げて見せようとする屋久に、背を向けたまま基泰がボソリと吐き捨てる。
「そう……」
「………」
スッと離れていく、屋久の気配。
それを追い掛ける事無く、一人ふて腐れる基泰。
「……で、何の話をしていたんたっけ?」
その基泰を他所に、基泰が彼女に話し掛ける。しかし、先程までの空気とは明らかに違っていた。
「………」
居心地の悪さなら、肌で感じている。
この場にそぐわない、二人の邪魔者だという空気は、ひしひしと伝わってくる。しかし、彼女とデートの約束をしたからここに来た──そう思えば、基泰はこのまま引き下がれなかった。
何がどうなって、こんな結果になったのか。屋久の出現は、必然か偶然か。
冷静でいられない頭で色んな思考を重ねるものの、その全てが言い訳がましく、また、何の説明もしない彼女に対しても、次第にその苛立ちが募っていた。
「………あぁ、そうだ。基泰に報告があったんだ」
「……」
それまでとは違う何か企んだようなトーンに、基泰が釣られるように振り返る。
直ぐ近くには、愛想笑いを浮かべる屋久。その向こうで、バツが悪そうな表情をした彼女が、スッと顔を背ける、
「彼女と、付き合う事になったんだよ」
「───!!」
瞬間、カッと頭に血が上る。
飄々と打ち明ける屋久の胸倉を、怒りに任せて掴み上げる。
その視界の端に映る、両手を口の前に当て、目を見開いた彼女。
「──基成、テメェ……ふざけんなっ!!」
「ふざけてなんか、ないよ」
荒々しい呼吸。怒りで震える拳。
掴み上げたそれに、屋久の手がそっと重ねられ、優しく包まれる。
「……」
近付く双眸。
その瞳の奥はやけに冷酷で、一瞬にして怒りの炎を奪い取る程だった。
その屋久の瞳がスッと近付けば、形の良い唇が一瞬歪み、大きく動く。
「これは忠告だよ、基泰。
……今後一切、俺の許可なく……彼女に近付くな」
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