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第404話

その日の夜。 沸々と湧き上がる怒りと焦燥に駆られ、基泰は中々眠れずにいた。 部屋を出て縁側へと向かう。 目の前に広がる日本園庭。やけに大きな満月が、風に揺れる木々の枝や葉、池の周りの石や水面を蒼白く幻想的に照らす。 「基泰」 「……」 「──眠れないのか?」 直ぐ背後で声がし、振り返る。 見れば、そこにいたのは──微笑みを浮かべる屋久。淡い月の光のせいで蒼白く陰影をつけたその姿は、何時になく妖しい雰囲気を纏っていた。 「女なんて、そんなもんだよ……」 基泰の隣に並んで立ち、怒りに満ちた基泰を涼しげな瞳で捕らえながら、冷徹に答える。 「幼気(いたいけ)な顔して、目的の為なら手段を選ばない。……あれは、そういう強かな女だよ」 「……」 「知らないだろうから、教えてやる。 あの女は以前から、お前に付き纏われて困っている、相談にのってくれと、事ある毎に俺に擦り寄っていたんだよ。 いい加減うんざりしていたし、一度断りを入れたら……今度は、お前に犯されるかもしれないって、突然脅えだして──」 「………!」 「勿論俺は、そんな戯れ言信じちゃいないよ。基泰が、そんな卑劣な事をする男じゃない事くらい、この俺が誰よりも知っているからね。 ただ──」 「……」 屋久が、徐に基泰の方へと身体を向ける。真っ直ぐ向けられる、双眸。 「お前がどんなに彼女を想おうが、彼女にとってのお前は………俺に近付く為の『踏み台』でしか無かったようだ」 「……」 「………悔しくないか?」 「……っ、」 屋久の左手が伸び、基泰の顎下へと指が添えられる。 何がそんなに嬉しいのか──口元を綻ばせ、妖しく光る瞳を細めた。 「そこでひとつ、提案がある。 このまま俺が彼女を捨てて、お前の憂さを晴らしてもいいが………もっと確実で、いい方法がある」 「………なんだ」 「それは、俺とお前が、一心同体になる事……」 「いっし……?」 添えた手が、戸惑う基泰の後頭部へと回り、グイッと引き寄せながら、屋久の唇が耳元に近付く。 そして囁かれる……端整ながらも低く、妖しげな屋久の声。 「つまり──二人で彼女を『共有』するんだよ」

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