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第406話
「基泰……話がある」
それは、彼女を共有してから三ヶ月後。
縁側に座り、夜の日本庭園を眺めながら思いに耽っていた基泰に、屋久が声を掛けた時だった。
「……」
何の反応も示さない基泰の隣に、屋久が腰を下ろす。
声に張りがない事に、後になって気付いた基泰は、チラリと屋久を横目で見やる。
月光の蒼白さのせいか──その顔色が随分と悪そうに見えた。
「彼女が別れたいと、泣きついてきた」
「……!」
「理由を聞けば………もう、お前に触られたくないから、だそうだ」
「──!!」
瞬間──
ゾワゾワと全身が震え、胸の奥を嫌なものが撫で上げる。と同時に、それまで感じていた彼女への想いが、一気に冷めていく。
彼女にとって、屋久の狂気じみた行為や奇妙な関係については、何の問題も無かったらしい。……つまり、自分の存在自体が嫌だと、案に訴えているように基泰は思えてならなかった。
「……」
ショックを隠せず、深い溜め息をつきながら項垂れる。
目を閉じたその瞼の裏に、今まで見てきた彼女の笑顔が、浮かび上がっては儚く消えていく。
まるで、シャボン玉のように……
その様子を見ていた屋久が、トン…と基泰の肩に手を置く。
「………これは、明らかな侮辱だよ。
あの女は、しつこく身体の繫がりを求めながら、激しく拒絶したんだからね。──この、『俺』に」
「……『俺』……?」
「そう。……お前と俺は、一心同体だろ? お前への侮辱は、俺への侮辱でもあるんだよ」
慰めるかように、基泰の肩に置いた方の手が首の後ろを滑り、腕を掛ける。
密着する身体。その耳元に、屋久の唇がスッと近付く。
「その受けた侮辱を、彼女に───」
「………そうか」
溜め息混じりの声。
言葉を遮り、顔を上げた基泰が屋久に瞳を向ける。
「なら、いい。
お前がそうやって、俺の代わりに怒ってくれんなら、もう止めよう。………望み通り、別れてやろうぜ」
吹っ切れた笑顔を見せる基泰の顔を、怪訝そうに屋久が覗き込む。
「お前……それでいいのか?」
目と鼻の先──腕を回し返し、屋久の後頭部に手のひらを当てた基泰が、コツン…と額と額を当てる。
「いいも何も、もう充分だろ。……全て、終わりにしようぜ」
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