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第408話
統率力という点で人より長けていた屋久は、あっという間にバラバラだったチームを纏め上げ、頂点に立った。
しかし、蓋を開けてみれば……その実態は監獄にいる元リーダー、菊地のお飾りでしかなかった。新リーダーが影武者になる事を条件に、既に桜井と各リーダーの間で話がついていたのだ。
「あの親父が、他でもねぇ俺を指名したのは……そういう理由だったって事だ。
お飾りである以上、最初から……誰でも良かったんだよ」
「……」
苦しそうに吐き出される声。
皺を寄せる眉根。
伏せ目がちの基泰の瞳に、絶望と苦悩の色が帯びる。
「……」
……その気持ちなら、解る。
何をしてもしなくても……無意味だと思い知らされた時の絶望感。誰からも必要とされず、生きているのさえ不安で。
息が、苦しくて。
期待するだけ無駄なんだと諦め、喪失感から次第に心が蝕んでいく感覚に襲われて……
不意に引き出されそうになる過去。
直ぐに払拭し、心の奥深くに押し込んで蓋を閉める。
「……でも、そのやり方に納得しなかった基成 は、元リーダーの威を借りながら好き放題やってな。それを利用する形で俺は、憂さ晴らしに暴力をふるって、相手を捩じ伏せてきた。
その甲斐あってか。スネイクは関東圏内にまで勢力を伸ばして、随分とでかい組織になったんだよ。───なのに!」
「……」
「桜井さんは、それを一切認めなかった。
其れ処か。菊地が釈放されたと同時に、お飾りにした俺らを簡単に捨てやがったんだ。──まるで、ゴミ屑のようにな」
悔しそうに喉奥から声を絞り出し、低く唸る。
テーブルに載せられていた手は強く握られ、怒りで震えていた。
『奪われる位なら、全て壊しちゃおうよ。基泰……』──何もかもを失った屋久が、絶望の淵で小さく吐き出した言葉。
弱々しい声。
初めて見るその姿に、心をつき動かされた基泰は……頼りなく差し出された屋久の手を、しっかりと両手で掴む。
「……」
……まさか……
その拳をじっと見つめる。
心臓が、嫌な音を立て始める。
……まさか……
そんな理由で、寛司を──?
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