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第409話
サッと血の気が引く。
指先から感覚が消え……震えが止まらない。
「……」
寛司から、話は聞いてた。
新リーダーは若すぎる上に、元々チームには関係のない人物だったから、分裂した各リーダーがそれを認めなかった……って。
それで、桜井……寛司のお父さんから、チームを纏める為に、指示役を頼まれたって。
………でも……
寛司だって、したくてした訳じゃない。
守りたいものがあったから……それと引き換えにしたんだって。
──なのに……
「………」
寛司の温もり。匂い。優しい声。──其れ等を思い出す度に、胸の奥深くを容赦なく抉られる。
大きく手を広げ、襲ってくる後悔。
失ってしまった悲しみが、溢れて止まらない………
目頭が熱くなり、視界の端がじわりと滲んでいく。
寛司の命を狙っていたのは、仇討ちなんかじゃない。
お飾りにされ、使い捨てにされた……只の腹いせだったんだ──
「──さくら」
俯いた途端、目の縁に溜まった悲しみの涙がぽろぽろと零れ落ちる。固く握り締めた手の甲。その上に落ちて跳ね上がる水滴。悲しみの海に、波紋のように広がってゆく。
「……」
「お前………泣いてくれんのか? 俺の為に──」
「──!」
驚いて顔を上げれば、見開いた眼 を向けた基泰がじっと僕を見つめていた。
「………」
その瞳に柔らかな光が宿り、基泰が嬉しそうに微笑む。
勘違いしてるなんて、思いもしないで。
「………本当……可愛いな、お前……」
「……」
「大事にする。……凄ぇ、大事にするよ。
俺がお前を、守るから。──絶対傷つけたり、手放したり、……嫌な事はしねぇから。
………俺の傍に、いろよな」
頬を赤くし、少し照れ臭そうに視線を外す。
「……」
だけど……僕は、それに答える事なんてできない。
あの箱庭にいる限り、僕の意思なんて無いに等しいから。
スンッと鼻を啜った後、口の端を緩く持ち上げた基泰が、パフェに刺さったポッキーを摘まんで引っこ抜く。
「………すっかり、溶けちまったな」
「……」
「ほら、食えよ」
そのポッキーの先端が、僕の下唇へと軽く押し当てられる。
目を伏せ、戸惑いながらも唇を割り開き、命令された通りにその先端を口に含む。
「………キス、してぇなぁ……」
「……」
「愛おしくて、堪んねぇ」
テーブルに頬杖をつき、そう呟いた基泰が、その柔らかな視線を僕の唇に向ける。
先の欠けたポッキー。それを今度は基泰が口に咥え、ポキンと欠く。
「堪んねぇよ、さくら……」
「……」
僕を見つめる双眸。
光を取り込んだその眼の奥に、何時ぶりかの劣情が宿るのが見えた。
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