419 / 558
第416話
その笑顔は、いつかのモルに似ていて……
胸の奥から顔を覗かせていた罪悪感が疼き出し、僕を苦しめる。
「……蕾……」
突然、その胸の内を吐き出そうとする僕に、蕾はキョトンとした顔を見せる。
「……」
「僕……モルに、酷い事した……」
それは──スネイクのアジトへ連れて行かれる前に立ち寄った、展望台での出来事。
吉岡に見せられた、携帯の動画に動揺した僕は……最期までモルを、信じきれなかった。
『信じて下さいッス……!』──モルは、必死でそう訴えていたのに……
「……僕は、いつだってモルを信頼していたのに……何であの時、信じてあげられなかったんだろう……」
男達に捕らえられ、暗闇の中へと消えていく──モルの傷付いた顔。
今までモルは、どんな事があっても僕の味方でいてくれた。優しく寄り添いながら僕に元気をくれて、僕の存在を肯定してくれた。
そんなモルが、僕に酷い事なんて……する筈がないのに──
「だから……僕は、蕾に助けて貰う資格なんて、ない……」
「……」
こんな風に、胸の内を吐露するのは余り無くて。感情を言葉に変換して吐き出していくうちに、それまで重苦しかった心が次第に軽くなっていく。
こんな事、モルの兄である蕾に伝えたって、仕方がないのに……
「──助ける、!」
真っ直ぐ見つめる蕾が、当たり前のように言葉を紡ぐ。
「類、言ってた。『姫を助ける』『姫は、俺の希望だから』って」
「──!」
『姫は、希望だから』
──瞬間、モルの言葉が蘇り、蕾のそれと重なって脳内に響く。
脳裏に浮かんだのは……笑顔を見せる、モルの姿。
壮絶な過去を感じさせない……周りを明るく元気にさせる、太陽のような笑顔。
「類、も……さくら、助ける。だから、大丈夫……」
「……」
「……大丈夫、だよ」
その笑顔が、蕾の表情と重なる。
「俺、も……さくら、希望。
もう……壊れるさくら、見たくない」
「……」
………壊れたり、しないよ。
もう、壊れたりしない。
「──うん、ありがとう」
そう言って微笑んでみせれば、僕の顔色をじっと伺っていた蕾が、ホッとしたように微笑み返す。
屈託のない、幼子のような笑顔で。
ともだちにシェアしよう!